村上隆氏『芸術起業論』で起業を読み解く

2013年10月22日 09:00

村上隆氏の『芸術起業論』(幻冬舎)を論じる。村上隆氏にとって、アートのマーケットは、厳格なルールで構成されたゲームなのである。しかも、長い歴史の厚みをもったゲームなのである。一朝一夕では変えようがない。ゲームなのだから、ルール違反は認められない。ルールを熟知し、ルールに忠実でありながら、確信犯的なルール違反を取り込むことで、新しいゲームのルールを提案していく。そのような厳しい努力が、マーケットに認められていくためには必要なのである。


マーケットに新しい要素を加えなければ、アーティストの存在意義はない。しかし、新しさは、マーケットのルールに徹底的に忠実であることの先にしかない。単なるルール違反は、新しくない。否定されるべき違反に過ぎない。アートでもない。

村上隆氏が、自己のアートを語るに、『芸術起業論』というタイトルをつけたのには、深い意味があるはずだ。アートでお金を儲ける、というような浅薄な意味で捉える向きもあるようだが、とんでもない誤解である。アートの存在形式そのものが、ビジネスの世界の起業の本質なのだ。起業がアートなのだ。

実際、村上隆氏の論理をそのままに、「アートのマーケット」を、ビジネスの世界のマーケット一般に置き換えれば、これは、立派なビジネスとしての起業論である。

起業を志す人は大勢いる。どの分野で起業をするにしても、起業する以上、既存のマーケットに対して何か新しいものを持ち込もうとするわけであろう。しかし、どのマーケットにも、長い歴史により形成されたルールがある。見えるルール、見えないルール、複雑に錯綜するルールの体系が現存する。それに対する批判的切り口で起業するのが普通であろうが、それが、もしも、単なるルール違反ならば、否定されるだけだ。起業は失敗する。

マーケットに認められる新しさ、村上隆氏の表現を借りれば、「新しいゲームの提案」、「歴史の新解釈」、「確信犯的ルール破り」の三つの要素がなければ、起業は成功しない。起業の成功にとって、社会の構造変化を巧みに捉えた確かな事業構想が必要なのは当然だが、その具体的内容について、村上隆氏の提起する三要素を明らかにしていくことは、非常に有益であろう。

ついでに、投資もアートしなくては。投資の舞台である巨大なグローバル資本市場は、歴史的に形成された複雑を極めたルールの体系である。しかも、アート以上に激しく革新が進行する市場である。全世界の英知を結集して、毎日のように、「新しいゲームの提案」と「確信犯的ルール破り」が行われている。しかし、意外と、「歴史の新解釈」は、疎かにされているような気がする。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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