世代間格差を是正する選挙制度改革が必要だ

池田 信夫

きょうのアゴラこども版に書いたのはわかりきった話だが、問題はこんな当たり前のことを主張する政党が一つもないことだ。特に三党合意で増税を決めた民主党まで増税先送りに賛成したのは無責任だが、現在の有権者の構成ではやむをえない。安倍首相は「代表なくして課税なし」といったが、将来世代は国会に代表を出せないからだ。


有名なmedian voterの定理によれば、小選挙区制では中位投票者の利益にあわせた政策を掲げることが合理的だ。たとえば9人の有権者が年齢順に1から9まで並んでいるとする。A党が最年少の投票者9の利益にあわせた政策を出すと、B党は8に合わせた政策を出せば1~8の票を取れる。これに勝つにはA党は7に合わせれば1~7を取ることができる…というように考えると結局、どっちの党も中位投票者5にあわせることが合理的になる。

つまり小選挙区制にすると政策論争が起こるというのは間違いで、どちらの党も中位投票者に合わせるため、政策の差は失われるのだ。これが今、起こっていることである。日本の有権者のメディアンは50代だが、投票率は高齢者ほど高く、議員定数は高齢化した地方ほど多いので、中位投票者は60歳ぐらいだから、どの党も60代以上の喜ぶ政策を掲げることが合理的になる。

小選挙区制が有効なのは、ヨーロッパのように階級対立が明確な社会や、アメリカのように白人とマイノリティの勢力が拮抗している社会に限られる。日本のように有権者が均質化している社会では、圧倒的多数の高齢者が政治を乗っ取り、世代間格差が拡大する。

これを解決する方法としては中選挙区に戻すことも一案だが、いかにも後ろ向きだ。ドメイン投票という提案もあるが、私は井堀利宏氏の提唱する年齢別選挙区のほうがいいと思う。これは各地域を30代までの「青年区」、40~50代の「中年区」、それ以上の「老年区」にわけるもので、これだと若年層も代表を選出できる。

いずれにせよ、90年代の選挙制度改革が失敗だったことは明白だ。超高齢化社会にあわせた新しい選挙制度が必要である。