地元の努力なくして「地方創生」なし --- 井本 省吾

アゴラ

日本経済新聞社のマーケティング・流通専門紙「日経MJ」の23日付けインタビュー記事が地方活性化のあり方を示していて有益だ。


舞台はいまNHK大河ドラマ「花燃ゆ」で注目を浴びている山口県萩市。ここの道の駅「萩しーまーと」が、珍しい地魚が手に入る施設として全国有数の人気なのだ。

成功のカギはまず、他の道の駅にありがちな観光客目当てではなく、地元の生活者を主対象にしたこと。萩しーまーとの中沢さかな駅長は語る。

観光客を対象にすると……観光シーズンや週末はいいが、オフシーズンの平日は閑古鳥。それでは経営的な安定感がない。観光客頼みはやめ、地元客に買ってもらえる施設にしなければ将来がないと考えたのです

利用者は萩市の買い物客が5割、50~60キロ圏内の山口市などが3割、県外観光客が2割。いかに地元の人が使ってくれるか。競争相手は市内のスーパー。複合店舗だけで4つもあった。これに打ち勝つにはスーパーにできないことをやるしかない。当時、スーパーの売り場に並んでいる魚は1割が地元産で残りが県外や海外産でした。逆をやろうと。地元産を8割まで増やした。

スーパーに並ぶ魚は約30種類。うちの港は250種類が水揚げされる。スーパーに並ばなくてもおいしい魚がたくさんあります。それを対面販売で売るのです。スーパーにできないことを貫いた結果、萩市の方々は普段の買い物は近所のスーパーに行きますが、うまい魚が食べたいときにはうちに来てくれるようになりました。安くないんですよ。ただ、ものはいいというのは市内の方は分かっていますから。ハレの買い物ですね

スーパーの逆を行く逆張りの発想がヒットした。これにもう1つの販売戦略が加わる。価値が低いと思われている魚の価値を知らせる情報戦略=巧みなブランド・マーケティングによって売上高を高めたのだ。

ブランド化の第1号は真フグでした。知名度がないから価格が安かった。当時キロ当たり400円。一方、(有名な)トラフグは5000円で浜値で10倍。プロはともかく素人には味の違いが分からないほどにおいしいのにこの差。味さえ伝えられれば、ブランド化ができると確信していました。1年で浜値が2倍に、今では1000円前後と2.5倍になりました

さらに重要なのが真フグより知られていない雑魚扱いの魚にも光を当てたこと。

西日本沿岸でとれ、萩では金太郎と呼ぶヒメジが典型。70~80トンの水揚げがあるのに雑魚扱いでした。金太郎をやりたいといったら周りから止められましたが、私には成算がありました。築地の卸や百貨店のバイヤーがセリ場の見学に来ると、必ず金太郎のところで足を止める。この魚何?見たことない、と。金太郎ですよと言うと驚く。キャッチーな名前。食べるとうまい。調べるとフランス料理に使われる高級魚のルージュと近縁種。物語性もありました

金太郎は結果として100人の雇用を生み出す大きな商品として「創生」された。

萩しーまーとの売上高は開業した2001年度は8億5千万円だったが、13年度は9億4千万円に増加。事業は黒字化している。店内には鮮魚だけでなく、金太郎をオイルに漬け込んだ「オイル・ルージュ」など加工品も並んでいる。

カギはマーケティング。政府の「地方創生」の声がかまびすしいが、地元それぞれの工夫がなければ、創生は掛け声倒れに終わる。金太郎のような埋もれた資源を探して地域の名物にするブランディングの努力が欠かせない。

拙ブログで以前、過疎地のビジネスとして有名な徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」を取り上げたことがある。徳島市中心部から車で約一時間の山の中。過疎化と高齢化が進んでいるが、椎茸栽培に加え、1987年に始まった「つまもの事業=葉っぱビジネス」が高齢者の収入を増やしている。

葉っぱは山中どこにでもあり、基本的にタダ。軽くて、女性や高齢者でも扱える。日本料理を美しく彩る季節の葉や花、山菜という点を武器に全国に販路を拡大した。中には年収1000万円を稼ぐおばあちゃんもいるという。

当時のブログで、こう記した。

国や自治体に頼らずに自分たちで消費者の求める商品・サービスを探し出し、自らアイデアを実践して稼ぐ。高齢者だからと言って年金にばかり頼るのではなく、自活する道を進む。年金財政は改善されるし、若者への負担は軽くなる。一石三鳥、四鳥の効果がある

今でも通用する、いや、ますます重要になっている視点だと思う。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年3月27日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。