軽減税率、朝令暮改の政治決断を

2015年10月24日 12:34

安倍首相は、先般(2015年10月21日)の政府・与党連絡会議(首相官邸)で、2017年4月の消費増税と同時に軽減税率の導入を目指すよう指示を行った。この指示を受け、現在のところ、軽減税率の具体的な制度設計について、11月中旬頃までに与党案を取りまとめる意向のようだ。

ところが、以下の通り、経済同友会の小林喜光代表幹事や日本チェーンストア協会の清水信次会長、日本商工会議所の田中常雅税制委員長をはじめ、多くの実務家から軽減税率の導入に反対する意見が出てきており、いずれの意見も正論である。

経済同友会・小林喜光代表幹事(日本経済新聞2015/10/22)

「税率が10%程度ならば必要はない」

「軽減税率を導入するよりも、現金給付と減税を組み合わせた給付付き税額控除などの給付策が負担軽減には適しているのでは」



日本チェーンストア協会・清水信次会長(日本経済新聞2015/10/22)

「英仏や韓国では制度が複雑で納税者も業者も国も往生している。韓国の税務当局の担当者に話を聞くと、生鮮食品と加工品の線引きができない、間違いはあっても細かく指摘するときりがないから悪意がなければ店の判断を否定しないと言っていた。対象商品の線引きや店によって税率が違うという点で不公平さがある」

「我々が扱う商品は何万種類とある。税率が変わればPOSレジの変更に1台3万円前後かかるが、当社の251店舗のうち多い店は何十台のレジがある。大変な費用と時間がかかってしまう。中小・零細事業者は経理区分など事務手続きの手間に耐えられない」

「口で言うのは簡単だが、売り上げから税率が違う物は仕分けしないといけない。酒を除く飲食料品で線引きしても、例えば飲食店の飲み放題ではどう分けるのか」

「もっと簡単な方法がいい。税の目的と国、国民の負担を分担する割合を考えたら一番簡単でやりやすいのは低所得者への給付だ。消費税は社会保障の大事な税源で、国家全体の財政の観点からもう少し慎重に議論しないといけない」



日本商工会議所・田中常雅税制委員長(日本経済新聞2015/10/22)

「(公明党が提案する「簡易方式」も)受け入れがたい。インボイスは要らなくなるが、事業者の事務の負担が増えることに変わりはない。税率が8%の商品と10%の商品を分けて経理する点は同じだ。販売の現場ではセット割引やリベート、返品なども日常的にある。経理処理に混乱が生じるのは間違いない。商品開発や商品管理など経理以外の面でも手間が増える」

「与党の選挙公約を満たすためとはいえ、複雑な制度になるのはかなわない。軽減税率そのものでなくても負担を軽くするという目的を果たせればいいのではないか」


また、筆者の意見はこちらであるが、以下の通り、学者の反対意見も多い。

大阪大学・大竹文雄教授

「軽減税率は高所得者が得するバラマキ策」(WEDGE)



ニッセイ基礎研究所・櫨浩一専務理事

「「軽減税率」は、あまりに問題がありすぎる 消費税の逆進性にどう対応するべきか」(東洋経済オンライン)



中央大学法科大学院・森信茂樹教授(東京財団上席研究員)

「公私混同して軽減税率にこだわる新聞は、財政再建を語る資格なし」(ダイヤモンド・オンライン)


なお、軽減税率の導入は「法律事項」でなく、撤回はいつでも可能である。

というのは、確かに平成27年度与党税制改正大綱では、「与党合意」として、「消費税の軽減税率制度については、関係事業者を含む国民の理解を得た上で、税率10%時に導入する。平成29年度からの導入を目指して、対象品目、区分経理、安定財源等について、早急に具体的な検討を進める」と明記されている。

他方、軽減税率の検討の発端である「税制改革法」(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律)第7条では、低所得者支援として軽減税率のみを想定しているわけでなく、給付付き税額控除なども含めて様々な角度から総合的に検討することを要請している。

つまり、税制改革法は「法律事項」で重いが、平成27年度与党税制改正大綱は「与党合意」のレベルに過ぎない。これは、「新たな与党の合意」の下、軽減税率の導入は撤回がいつでも可能なことを意味する。

筆者は無党派で特定の支持政党は存在しないが、自民党にも公明党にも尊敬する議員がいる。「税は政治」という言葉があるが、税制は国家の基盤である。

低所得者対策をするのであれば、軽減税率の導入以外にも、「簡素な給付措置」や「給付付き税額控除」で対応する方法もあり、その方が効果的かつ効率的である。国家百年の計として、朝令暮改の政治決断で、軽減税率を撤回してはどうだろうか。

(法政大学経済学部教授 小黒一正)

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