米国での情報アクセシビリティ訴訟

二つの記事「米国がアクセシビリティ技術基準を改定する」「情報アクセシビリティ技術基準のインパクト」で、技術基準の準拠した製品・サービスの購入が連邦政府の義務であることを説明した。それでは、民間はどうなっているのだろうか。

司法省には、1990年法のThe Americans with Disabilities Act(ADA)に関連する情報を提供するサイトがある。ADAは障害者差別を禁止する法律である。このサイトに掲載されている情報その他を利用して、今日は、司法省への苦情申し立てや訴訟に至った事例を紹介する。

ウェブサイトに関連する苦情や訴訟は多く、半分以上は小売業に対して提起されている。たとえば、数百のガソリンスタンド・コンビニエンスストア・トラック停留所・旅行センターなどを展開するQuikTripは、建物のアクセシビリティとともにウェブアクセシビリティの改善について2010年に同意している。これは、司法省に対する苦情申し立てに対して、同意審決という形式で確定したものである。ウォルトディズニーにはディズニーリゾートの施設とウェブがADAに反しているとの民事訴訟を提起され、2012年に和解に達している。

ネット経由の動画配信ビジネスが拡大しているが、提供企業の多くに訴訟が提起された。Netflix、Hulu、Amazon Prime Videoなどが対象で、いずれも聴覚障害者が字幕付与を求めたものである。Netflixは2012年に法的拘束力のある同意判決を受けいれ、過去の動画にも遡及して100%字幕を付与することにした。Huluは2017年9月までに英語とスペイン語で字幕を付与することにした。Amazonも190,000を超えるテレビ番組や映画に字幕を付けることになった。

教育機関にも訴訟が提起されることがある。マサチューセッツ工科大学とハーバード大学は共同してMOOC(大規模な無料オンライン講座)を提供している。これも、正確な字幕をすべてのコンテンツに対して提供できなかったとして訴訟になった。訴訟は進行中である。

カリフォルニア大学バークレー校の学部生は、教科書のアクセシビリティについて大学と交渉した。その結果、教員は学期の十分前に教科書を特定し、点字やデジタルに変換して障害学生に提供することで公平な教育機会を提供するよう、2015年から改善されている。

苦情申し立てや訴訟はほかにも多数存在する。障害者の社会参加を促進するよう情報アクセシビリティに配慮することは、すでに米国では広範に合意された政策目標である。