情報アクセシビリティ技術基準のインパクト

1月9日に「米国がアクセシビリティ技術基準を改定する」という記事をアップした。記事の中では、情報通信機器・サービスに関する技術基準は間もなく公開されると書いたが、米国時間の1月9日にその技術基準が公開された

米国連邦政府アクセスボードの報道発表で特記すべきポイントは第3段落である。リハビリテーション法508条と連邦通信法255条に対応した技術基準を、技術の融合といった市場トレンドに合わせたとしたうえで、新技術基準は国内外の技術基準、特に欧州基準とWCAG2.0に整合させたと説明している。

2000年に制定された旧基準は米国独自のもので、国内関係者だけで作成された。このことが貿易障壁との批判を呼び、2006年からの改定作業には国内のほか、カナダ・オーストラリア・日本と欧州委員会が参加した。僕は日本からの委員だった。欧州委員会も公共調達における情報アクセシビリティの義務化に進んでいたため、欧州基準との整合が図られた。

WCAG2.0はウェブ・アクセシビリティ・コンテンツ・ガイドライン第2版のことで、ウェブ技術に関する国際標準化団体W3Cで作成された技術基準である。ウェブコンテンツが満たすべきアクセシビリティ品質として、レベルA、レベルAA、レベルAAAという3段階の達成基準を設けているが、今回、米国はレベルAAまでの準拠を求めることにした。これは、欧州をはじめ韓国・オーストラリア・カナダなどと歩調を合わせている。我が国についても総務省が「みんなの公共サイト運用ガイドライン」を制定し、レベルAAまでの準拠を求めている。ウェブでも国際整合が図られたわけだ。なお、ウェブには、ウェブサイトだけでなく、電子文書やソフトウェアも含まれるので、わが国で言えば印鑑証明書の自動発行機なども対象になる。

米国の新技術基準は米国だけでなく、わが国にも影響を及ぼす。我が国の輸出メーカーは、米国と欧州で同一の対応をすれば済むので負担は軽減される。一方で、米国や欧州の立場からは日本に圧力をかけやすくなる。たとえば、日本のウェブサイトがレベルAAに対応していない場合には、情報アクセス権を阻害しているとして、我が国政府や地方公共団体に欧米の障害者から直接苦情が来るかもしれない。

米国の情報アクセシビリティ技術基準は改定に10年を要した。しかし、その間に関係者への広報は行き届いていたので、米国では早期に対応が進むであろう。これに対して、我が国の腰が引けていれば、国際的に恥ずかしい状況に陥る危険がある。