ライドシェアに空念仏で反対するタクシー業界

山田 肇

タクシー業界の業界紙「taxi japan」の新年号を読んだ。業界幹部による年頭挨拶特集なのだが、「ライドシェアは白タク行為」という言葉ばかりが唱えられていた。これには編集部も危機感を抱いたようで、「ライドシェアの変化を無視した空念仏!」が編集部からの挨拶だった。

日本におけるタクシーの歴史は1912年に始まるが、自家用車を持てない当時の人々にとっては、これはライドシェアそのものであった。つまり現状は、古いライドシェアが新しく生まれたライドシェアに反対しているに過ぎない。

全国ハイヤー・タクシー連合会は2016年10月にライドシェア対策11項目を決めた。①初乗り距離短縮運賃②相乗り運賃③事前確定運賃④ダイナミックプライシング⑤定額運賃⑥相互レイティング⑦ユニバーサルデザインタクシー⑧タクシー全面広告⑨第二種免許の緩和⑩プライベイト・リムジン⑪乗合タクシーがそれだ。

初乗り距離短縮運賃は東京では1月30日に実施されるもので、「2キロまで730円」が「約1キロまで410円」になる。ユニバーサルデザインタクシーは乗り降りが容易な新車を指す。相互レイティングは意味不明である。利用者がドライバーを評価し、ドライバーも乗客を評価するという。ちょっと待ってほしい。流しのタクシーで利用者はどうして優良ドライバーが選択でき、「乗務員は不審なお客様を排除することが可能」なのだろうか。

相互レイティングはライドシェアのレーティングシステムを模倣したものだが、ライドシェアで可能なのは予約制だからである。利用者は予約の時点で評判の良いドライバーを選択でき、ドライバーも評判の悪い利用者は拒否できる。これがサービス品質の向上に役立っている。

連合会の対策の大半は、相乗り運賃なども含めてタクシーのほうが安いですよ、乗り降りが楽ですよと訴えるものだから、これらはライドシェアと市場で戦うための対策である。ライドシェア反対といっても負けは確実だから、導入時に優位に立てるように対策を考えたとしか読み取れない。だから、反対は空念仏に過ぎないと批判されてしまうのだ。

空室を利用した宿泊サービスAirbnbは、リオ五輪で代替宿泊施設公式サプライヤーに選定された。会期中に現地でAirbnbを利用したゲストは8万5000人に達したという。大きなイベントなど、タクシーが急に増車できないときにライドシェアが役立つ。レーティングシステムを活用すれば、英語ができないタクシー乗務員より訪日客へのおもてなしはうまくいく。先の記事「朝日新聞の新年ダメダメ記事」にも書いたが、タクシー会社が撤退した地方都市でもライドシェアは有効である。

タクシーとライドシェアは、市場を奪い合うのではなく、両立できる可能性がある。利用者の安全を確保するための規制を加えたうえで、政府はライドシェアを容認するのがよい。いずれにしろ、タクシー業界の反対は空念仏に過ぎないのだから。