心理カウンセラーに聞く。過去のトラウマを炙り出す方法

尾藤 克之

写真は参考書籍書影

アゴラでは、「出版道場」という出版ニーズに応えるための実践講座を年2回開催している。その影響もあり、著者や出版社から献本されることが多い。今回は、『敏感すぎるあなたが7日間で自己肯定感をあげる方法』(あさ出版)を紹介したい。

著者は根本裕幸(以下、根本氏)。心理カウンセラーとしてのべ2万人におよぶ人と向き合ってきたという人物である。本書のテーマである「自己肯定感」は、EQ理論から派生したもの(後述する)と考えられる。私なりの視点で解説したい。

トラウマは学校生活に隠されている

――自分自身を見つめ直し掘り下げる際、「過去」に向き合う作業が必要になる場合がある。そのなかで見えてくるものがある。例えば、人の目を気にしすぎる人であれば、自分の気持ちを押し殺さないといけないような経験があったかも知れない。

「ここでもやるべきことは思い出すだけ、きっかけを見つめるだけです。この出来事が今の敏感な自分をつくったきっかけかと感じるだけでいいのです。もちろん辛い記憶もあると思います。嫌な記憶、忘れたい記憶を思い出すことになるかもしれません。でも、そんな経験をしたことも含めて『自分』なのです。」(根本氏)

「思春期というのは小学校の中学年くらいから高校生くらいまでを指します。肉体的にも子どもから大人に変わっていく時期です。カウンセリングをしていると、この思春期に起こった些細な出来事がきっかけで大人になっても人間関係に異常なほどに気をつかい、疲れてしまっている人に出会うことがよくあります。」(同)

――この時期は自意識が高まって敏感になりやすい。ちょっとしたことで傷ついたり、コンプレックスを抱くことがある。

「気になるのは周りの人の外見や行動だけではありません。『周りからどう見られているのか』『どう思われているのか』という点も気になります。思春期の自分を掘り下げていくと、高い確率で人間関係に敏感すぎる自分、異常に気にしすぎてしまう自分をつくったきっかけに出会えます。そこにトラウマが潜んでいることもあります。」(根本氏)

――些細な出来事でも、心の中でずっとひっかかって大人になった自分に影響を与えていることは少なくない。大人になってしまえば些細なこと、たいしたことでないと感じることでも、当時の自分にとっては大事件である。

「周りの目が気になり、人と自分を比較することが癖になりやすいこの時期は『ちょっとしたこと』がトラウマになりやすいものです。ある女性のクライアントさんは変化を恐れ、本当はチャレンジしたいことがあるのにいつも一歩を踏み出せないでいました。そんな彼女に聞いたところ、このような話をしてくれました。」(根本氏)

「中学のとき、少し勇気を出して、いつもとはちょっと違う服でオシャレして遊びに行ったことがあったんです。そうしたら、仲のいい友達から『えー、それ変だよ』と言われたんです。それが予想以上にショックでした。今から思えばたいしたことがないし、友達も笑いながら言っていたので悪気はなかったと思います。」(同)

「自己肯定感」という切り口について

2000年以降、多くの会社で成果主義人事制度が導入された。成果主義による組織活性化が期待されたが、むしろ制度上の矛盾を露呈する結果に陥った。社員のマインドは疲弊し将来のパスが見えにくく漠然とした不安が蔓延した。その後、成果主義を効果的に定着させる理論としてEQ( Emotional Intelligence Quotient)がブームになる。

当時、私はEQJapanという組織に所属していたが、この組織はEQ理論提唱者と共同研究をしていた世界唯一の研究機関になる。受験者のデータを詳細分析したうえで、セルフマネジメントのプログラムを上市、EQ理論を普及させる活動にまい進した。その後、EQブームは収束していったが、新たな理論が台頭してくる。

冒頭、本書のテーマである「自己肯定感」は、EQ理論から派生したものと述べたが、「自己肯定感」は、EQでいう、私的自己意識と抑鬱性がミックスした領域と考えられる。これを上手くコントロールしていくには、楽観性やセルフエフィカシーが必要になる。

心理学用語やEQの素養などは非常に難解で必ずしも一般性を持つものではないが、本書の、「自己肯定感」は平易でわかりやすい。炙り出すだけでは解決にはならないが、問題が特定されれば打ち手を見つけることは難しくない。

世の中には、問題や阻害要因を炙り出すことさえできない診断やアセスメントが多すぎる。こういうムダなものにコストをかけるなら、本書を読みながら正直に自分の気持ちに問いかけたほうが、間違いなく効果的である。

参考書籍
敏感すぎるあなたが7日間で自己肯定感をあげる方法』(あさ出版)

尾藤克之
コラムニスト

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