米中覇権戦争の今と、トランプの肚の中

2018年10月25日 06:00

冷戦宣言

4日のペンス副大統領のハドソン研究所での演説によって、トランプ米政権は実質的に中国に対し覇権を掛けた冷戦入りを宣言した。

これまで米大手メディアの多くは、トランプの仕掛ける貿易戦争は11月の中間選挙目当ての短期的なものだろうと見ていたが、4日のペンス演説によって見方を変えざるを得なくなって来ているようだ。

続く10日、NYダウ平均株価の急落を発端として世界同時株安が発生した。これは、米中貿易摩擦による景気の冷え込み懸念、減税による財政悪化と共に、米金利上昇が原因と言われており、トランプ大統領はFRBの利上げ政策を前にも増して激しく非難した。

この一連の流れを見ると、トランプは対中貿易戦争での景気の落ち込みを見越して、予てからFRBの利上げ姿勢を批判してきたとすると辻褄が合うようにも見える。トランプは、経済貿易と軍事力で長期に渡るであろう米中覇権戦争を勝ち抜くつもりのようだ。

中国メディアの報道より:編集部

中国、「韜光養晦」へ?

一方の中国は、米中関税合戦で経済に対米輸出エンジンを失うため、内需シフトを加速させる共に、AIIB(アジア開発投資銀行)、一帯一路構想に日本を巻き込んで、その杜撰さと経済植民地指向によるこの所の世界的悪評をかわそうとして日本に急接近して来ている。

習近平国家主席は覇権への道を進めてきたが、関税合戦で中国に勝ち目はなく、恐らく対米貿易戦争を一旦休戦するだろう。11月6日に行われる米中間選挙の結果を見てトランプへの譲歩の幅を見定めようしているところだ。

だが米国民は、国家第一の敵は「中悪魔のロシア」でなく「大悪魔の中国」であると10年遅れで気付きつつあり、たとえ共和党が下院選挙で負けても、これまでのようには、少なくとも民主党等によるロシア・ゲート追及は盛り上がらないと思われる。

中国が実戦になる可能性も考慮に入れ米国と正面から対決するのは、早くとも一人っ子政策が「二人っ子政策」になった成果が出て来て、生まれた子供が兵士と成り得る2040年前後以降だ。それまでは、鄧小平の唱えた「韜光養晦」(能ある鷹は爪を隠すという様な意)の方向へ一歩後退し、少なくとも、2年後若しくは6年後のトランプ政権終焉後までは臥竜として力を蓄えて行くスタンスを取るのではないか。

トランプの肚

気が付けば、トランプの始めた貿易戦争は、対EU、対メキシコ・カナダ、対日本で、暫定的に小康状態となり、中国による技術の違法コピー問題等々を中心に中国包囲網が出来上がりつつある。トランプのこれまでの全方位的な貿易強硬姿勢は、北朝鮮核廃棄に向け中国の影響力を利用するに当たって、対中強硬姿勢を突出させないためのカムフラージュと見えないこともない。あるいは、家康が関ケ原で動かぬ小早川陣内に鉄砲を打ち込んだような効果も狙ったのかも知れない。

もっとも、経済と軍事で中国との覇権戦争を勝ち抜くべき事を唱え、トランプ政権の戦略の中核となっている補佐官のピーター・ナヴァロは、貿易問題で対中のみならず対日を含む同盟国にもシビアな見方をしている。それに加え、トランプはレシプロカル(相互的)というワードを多用しており、貿易に於いて2国間バランスで結果の平等を実現させるのを最終ゴールとしているとも見え、警戒が必要だ。

トランプの肚の中は良く見えない。筆者は、トランプが2016年の大統領選でイラク戦没者遺族を正面から中傷したことを思い出す。たとえ民主党大会で自身の徴兵回避を揶揄されたにせよ、戦没者遺族に強い言葉を浴びせるべきでないのは古今東西の常識だろう。筆者にはその時トランプは大統領選を放棄したように映った。

しかし今振り返れば当時は7月の共和党大会で候補者指名を受けた直後で、その大会でトランプは比較的お行儀良く振舞っていた。もしそのまま「上品なトランプさん」のままヒラリーとの10月の討論会に臨んだら、果たして自身へのセクハラ問題追及に対してビル・クリントンにレイプされたという複数の女性を記者会見させて会場へ連れて来て対抗しようと画策まで出来ただろうか?戦没者すら罵倒するような「下品なトランプさん」のキャラだからこそ出来たのではないか。

筆者はトランプが自身へのセクハラ追及の火消しをするために予め仕込んで演じていた可能性は大いにあると考えている。

トランプが、接近する中露の間に楔を打ち込んで、ロシアと結び進んでは「米露同盟」と各国による包囲網で覇権を狙う中国の牙を抜く戦略なのは分かるし、それ以外の選択肢はない。しかし、世界的な貿易システムをどうしたいのかは明確には見えない。またイスラエルの既得権維持を基本に据えつつも、中東秩序全体を具体的にどうしたいのかはもっと見えない。(全く白紙なのかも知れないが)

日本は、こうしたトランプの一挙手一動を読み解きながら、国際的大義は奈辺にあるのかを模索しつつ、強かに国益を確保することが必要だろう。

佐藤 鴻全  政治外交ウォッチャー、ブロガー、会社員

HP佐藤総研

Twitter佐藤鴻全

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