解雇規制緩和で何がどう変わるの?と思った時に読む話

2019年02月21日 16:00

今週のメルマガ前半部の紹介です。
最近、アトキンさん絡みの質問を続けていただきました。いい機会なので筆者のスタンスをまとめておきましょう。

Q1:
城さんこんにちは。いつも配信楽しみにしております。

先日、デービッドアトキンソンの日本人の勝算という本を読み疑問が湧きましたので教えてください。

彼の主張を乱暴にまとめますと、日本人は生産性が低い→その理由は中小企業が多すぎる(世界的には大企業の割合が大きいほど生産性が高いデータ有り)、最低賃金が低すぎる(日本の人材評価は世界4位で急激な賃上げによって社会問題化した人材評価が低い韓国とは違う)ので、まず最低賃金を段階的に上げて企業統合を政策で推し進めるべきというものです。

賃上げは一労働者としては極めて喜ばしいことですが、社内の人事評価の制度が異なる日本(伝統的な企業では未だに人事評価を明確にせず将来の出世手形をつかませる代わりに現行の賃金を抑制する仕組み。空手形かもしれないけど。同一労働同一賃金、職務給とは異なる仕組みが日本は未だ強い)が他国のデータ比較を基にこの政策を実施してどこまで効果があるか疑問があります。

城さんはどのように思われますでしょうか?

Q2:
デービッド・アトキンソン氏は近著「日本人の勝算」(第7章)で、解雇規制緩和するだけで劇的に生産性が向上するのかは懐疑的であり(世界経済フォーラムのデータでは先進国の解雇規制と生産性の相関係数は0・32)、企業に生産性向上をコミットしないまま規制緩和すれば逆効果になるのではないか、と書いております。

私も確かに解雇規制緩和だけでは生産性の劇的向上はないかもしれませんが、緩和による日本人の働き方・行動に大きなプラスの変化(長期的な生産性向上を含む)があると考えており、アトキンソン氏とは少し違う感覚があります。

そこで、現在の日本において解雇規制緩和のみ実施した場合、どのような影響があるでしょうか。また、緩和によってマイナスの影響がある場合、対処するため追加でどのような政策等が必要だとお考えでしょうか。

いつもおっしゃっていることが結論になってしまうかもしれませんが、宜しくお願いします。

写真AC:編集部

アトキンソン氏の論点

氏の論点を簡単にまとめると以下のようになります。

「日本企業の生産性はとても低いが、逆に言えばそれを向上させることが出来ればチャンスでもある。ではどうするか。日本人労働者の質自体は高く、低いのは経営者の質だ。だから経営者に生産性向上のインセンティブを与えて尻を叩いてやることが必要なのだ」

そして、そのために最低賃金の引き上げが必要だというのが最近の意見ですね。

外国人アナリストの目には日本企業はどう見えているのか

筆者は様々な国のビジネスマンや通信社の記者、研究者等に日本の雇用状況について解説する機会があります。「今度投資しようと思っている会社があるんだけど人事制度はどうなっているのか」とか「どうして日本では普通のサラリーマンが死ぬまで働くのか」といったテーマですね。変わったところではハンブルク大学に呼ばれてシンポジウムで日本の雇用問題について話をしたこともあります。

彼らは日本全体のイメージはある程度持っていますが、その中身、特に企業組織のなかでどういうメカニズムが働いているのかまでは分かっていません。だから、だいたい外から見た情報に基づいて以下のような印象を持っています。

1. 日本の経営者は無能かつ高齢すぎ

彼らが目にする日本の大企業の経営者はほぼ例外なく55歳以上の男性であり、その多くが転職経験のない生え抜きです。桜田大臣の時にも説明しましたけど、年功序列で出世した人というのは、年俸10億円以上がザラで転職経験の豊富な欧米のプロ経営者と比べると、能力的にどうしても見劣りすることになります。

【参考リンク】なんで我が国のサイバーセキュリティー担当相ってパソコン使えなくてもなれるの?と思った時に読む話

2. 日本人は長時間働き、生産性も低い

日本人が異常なほど長時間労働している事実は、ちょっとでも日本に関心のある人なら常識です。それで生み出す付加価値も決して高くは無いため、時間当たりの労働生産性も万年主要先進国中最下位というのも有名な話です。

3. 最大の謎は「どうしてそういう状況を経営者も従業員も変えようとしないのか」

そして、彼らは最大の謎に行き着くことになります。

「なぜ経営者は事業再編してそういう状況を抜本的に見直さないの?まあ経営者はアホだからわかるけど、なんで労働者は文句言って残業ボイコットしたりマトモな会社に転職したりしないの?日本人っていったい何考えてるの?」

ちなみに筆者の解説は大雑把に言えば「日本では人員削減の代わりに残業削減するので常に一定の残業が前提であり労組も全面協力、信じられないかもしれないが研究職でさえ時給で払うのであらかじめ残業しないと元が取れない給与体系になっており残業慢性化。経営者は確かにそんなに優秀じゃないかもしれないけど彼らは雇用維持が最優先なのでそもそも出来ることは限られる」という話ですね。

といっても彼らにはなかなか理解してはもらえませんが。それくらい日本型雇用というのは世界から見ればエキセントリックな代物だということです。

筆者はアトキンさんの主張には一通り目を通していますが、恐らく氏も上記のようなスタンスだと考えて間違いないと思います。そして氏の場合、“最大の謎”に対する答えを「経営者が無能かつ、日本人全体が高度成長期の成功体験に縛られているから」という理由で説明しようとしているように見えます。

だから、現在の無能な経営者に解雇規制緩和してやっても何にもやらないか、もともと無い頭をひねっておかしな事業再編をやって、結局生産性の向上にはつながらないんじゃないか、と心配しているんだと思います。

日本型雇用に対する理解は別にして、その結論自体は実は間違っていないと筆者も思いますね。解雇規制緩和しても、出来ない社員をじゃんじゃんリストラして優秀者に報いる日本企業は少ないでしょうし、1年やそこらで日本の労働生産性が目に見えて向上することは無いでしょう。

大半のサラリーマンは「あれ?で何か変わったの?」という感じで日々を過ごすことになるはずです。

以降、
最低賃金を上げると日本はどう変わるか
解雇規制緩和で一番変わるもの

※詳細はメルマガにて(夜間飛行)

Q:「外資から年収2倍のオファーを頂きました」
→A:「将来的にどういう働き方をしていたいかで判断すべきでしょう」

Q:「若手の凡ミス連発にどう対処すべき?」
→A:「身が入っていない理由はいくつか考えられます」

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2019年2月21日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。

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城 繁幸
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表取締役

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