書評「僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話」

2019年08月27日 16:00

「僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話」
衝撃的なタイトルですが、これは実話で、この度KKベストセラーズさんから出版されました。

みなさんは元NHKアナウンサーの塚本堅一さんをご存知ですか?
2016年1月に危険ドラッグに指定された「ラッシュ」の所持・製造で逮捕され、大きく報道されたので、「あぁ、あの人!」と思われるかもしれません。
「シブ5時」という人気ニュース番組でリポーターを務めておられた矢先の出来事でした。

一般の方々は、どんな風にこの事件を受けとめられたのか分かりませんが、我々、依存症界の人間はこの事件を聞いて「えぇ!ラッシュで~。なんて気の毒な・・・」という思いがありました。

皆さんも覚えておられると思いますが、2014年ごろ危険ドラッグが社会問題となり、その撲滅のために、次から次へと含有成分の規制を行っていくという、完全に本末転倒した取締りが行われ、多くの人の命が奪われました。

これは、日本人の「法さえ犯さなければ何やってもいい」という、ある意味ゆがんだ遵法精神を、完全に生産者側に逆手に取られ、どんどんどんどん人体に危険なものが使用されていくという悪循環から起こった社会問題です。
でも、これ当然の結末だと思いません?なんだって国はこんな対策をとったのか?
それで、幻覚症状などからくる交通事故など大きな社会問題が次々と起こったんですよね。
その結果、薬物使用者のスティグマが益々強まったんです。

それが何故終焉したかと言えば「危険ドラッグ」を売っていた側も「脱法」ってところが重要で、「犯罪じゃない!」ってことにこだわっていたわけなんですね。
だから結局「ヤバそうなもの売るなら、自分たちで安全性を証明しろ!証明できないものは違法!」
ってな、大きなくくりの法律作ったら、一気に終焉したんですよね。

つまり売ってる方も、お縄を頂戴したくないというチキンであり、かつ、自分さえ儲かればよいという残忍な奴らだったわけです。
私なんぞ、是非ともこの法律をギャンブル産業にあてはめて欲しいと思っちゃいますけど・・・

でも日本の問題はそうまでして心が疲れきっていて、一次的な刺激を求める人達が沢山いるってことなんですよね。

そしてこの危険ドラッグ大騒動のさなかに、ラッシュが危険ドラッグに指定されたんですね。
でもラッシュなんて本当はたいして危険性なんかないんですよ。
薬物の有害性をランク付けした、我々依存症界では有名な論文があるんですけれども、これは2007年に「THE LANCET」という医学雑誌に掲載されているんですね。

Development of a rational scale to assess the harm of drugs of potential misuse(THE LANCET )

この研究は、20種類の薬物を①身体的有害性、②依存性、③社会的有害性をそれぞれ数値化してランク付けしているんですが、ラッシュはですね、なんと20薬物中19位ですよ!
1位はヘロイン、2位はコカイン、3位バルビツール酸系睡眠薬、と続くんですが、なんと5位がアルコール、9位がタバコですからね!

こういうの見ると、日本の薬物政策ってホント科学的根拠に乏しいよなぁと思いますね。
日本の一番の薬物問題はなんといったって、処方薬と市販薬ですからね。
でも、巨大産業がくっついてると、政府は対策を何にもやらないんですよ。

と、まぁこんな社会的背景があったさなか、マトリもやたらめったら「ラッシュ」を取締り、逮捕者を出したんですね。
そのとばっちりをくった一人が塚本堅一さんです。
ラッシュに関しては、公務員や会社員が逮捕により突然解雇されたりしていて、むしろそういった社会的損失の方が大きい!と、活動されておられる方々もいます。

我々からすると「たかだかラッシュでNHK解雇って厳しすぎる!」って思いますけど、残念ながら、塚本さんはそうなってしまう訳です。

その後、孤独と絶望を味わっていた塚本さんですが、なんとですねその真っ暗やみの最中に私にメールを下さったんですね!
そこからご縁ができて、私がガンガン表舞台に引っ張り出す(笑)という経緯があって、今やこうしてご著書まで出版される!という大活躍ぶりを発揮されている訳です。

マトリが塚本さんの家に踏み込んでくる話しなど、臨場感にあふれています。
私とのやりとりや、仲間との出会い、松本俊彦先生との対談など盛りだくさんの内容となっていますので、是非ご一読下さいね!

振り返ってみると、塚本さんにとってはすごく気の毒な薬物事件での逮捕でしたけど、私たちにとっては、薬物問題を語れる当事者として貴重な存在です。
だからまだ傷も完全には癒えていないかもしれないですけど、今の塚本さんには、
「仲間になってくれてありがとう」
という言葉を贈りたいです!


田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト

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田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表

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