森ゆうこ騒動:玉木代表の文面に見る、国民民主党「PMI」の苦悩

新田 哲史

森ゆうこ氏の質問問題を巡り、国民民主党の玉木代表が22日夕、自身のブログで「党所属議員の質問通告などに関する見解」を掲載した(アゴラでも掲載)。ブログでは、一連の騒動に対する自らの見解を示したほか、原英史氏の住所などの個人情報を森氏が漏洩した問題についても謝罪している。

なぜ党のHPに即日で掲載しない?

一読した印象では、玉木氏自身の誠実さだけは伝わってくるものの、これが党全体として所属議員に共有され、党を挙げて「真心」をこめたものなのか懐疑的に思える。

まず、被害者の原氏も言うように本人から謝罪がない。これは致命的だ。

次に不思議なのは、党代表として自らの「考えを示す」としながら、なぜ代表の個人ブログのみでの掲載なのかだ。筆者の手元にあるRSS通知アプリでは、当該ブログのアップされたのは22日15時過ぎ。ところが国民民主党の公式サイトのニュース欄には、23日未明まで掲載されなかった。

国民民主党公式サイトニュース(23日午前0時ごろ)

玉木代表の定例記者会見のYouTubeと会見録ですでに掲載したという言い分もあろうが、動画をいちいちクリックする人は少ないし、ほかのイシューに挟む形では埋没してしまう。あらためて謝罪見解であることを見出しも入れてテキスト化するのが親切だろう。実際、香港問題への玉木氏の談話は同じタイミングで党のニュースには掲載されている。

党広報の手が回らなかったという見方もできるが、誠意は伝わらず、過失としては小さくない。

もう一つ、玉木氏の個人ブログでしか実質掲載されなかった理由として考えられるのが、党の公式サイトで代表談話として出す、つまり事実上の党の正式見解として打ち出しづらい何かがあった可能性だ。

原氏に謝罪した部分は痛手ではない

「杞憂」であることを願うが、文面を分析すると、そこに玉木氏(草稿づくりに携わった関係者含め)らの苦慮が滲み出ているように感じる。私も政治家や企業の謝罪文や釈明文のドラフトづくりには何度も携わってきたので、行間に構成面のプロセスを感じてしまうのだ。

政治でもビジネスでも謝罪するときは、どこに「最終防衛ライン」があるかを決め、さらに何段階かで防衛ラインを設定する。そして、組織内の都合と外から見たときの社会通念とをすり合わせて、落とし所を見つける。

当事者は前者の論理にひきずられやすいので、広報ブレーンは、内部事情を熟知した上で、できるだけ外側に引き戻すように調整する。「ここなら世論やメディアもある程度は納得するだろう」というポイントを提案できるかがブレーンの腕の見せ所だ。

そうして見た場合、玉木氏のブログは冒頭で、森氏による原英史氏の個人情報漏洩を謝罪しているが、これは誰がみても明らかな問題。篭城戦に例えれば「外堀の外堀」に過ぎず、守る側からすれば大きな痛手ではない。

国会中継(YouTubeより)

維新側の主張と矛盾する核心

そして、この問題の核心は、森ゆうこ氏や原口一博氏、舟山康江氏ら同党国対の一連の言動の妥当性だ。すなわち、大元の質問通告の実態がどういうものだったかだ。

周知の通り、維新の足立康史衆議院議員の国会質問で状況は明らかになっている。

すなわち、森氏が期限内に出したと主張している「通告」とは「質疑者の氏名、順番、答弁者の名前」を通告するものに過ぎない。参議院独自のルールで、質問の具体的な中身を伝える「質問通告書」とは別物、つまり官僚サイドが答弁を作れるほどの内容ではなかったことが、内閣官房・参議院委員部の答弁で明らかになっている(参照:音喜多議員ブログ「ビジネス野党の体たらく。森ゆうこ議員の質疑通告、夜22時で正式確定」)。

これに対し、玉木氏のブログでは、

「通告」、「要旨」ともに申し合わせの時間までに、参議院委員部第一課予算担当に提出されていたというのが事実です。

などと強調しており、維新側との見解の相違が東京⇄大阪間の距離に匹敵するほど隔たっている。

維新が誤解したのか、参議院委員部の答弁が事実と異なるのか、国民民主党側が嘘をついたのか、ますます意味不明だが、通告期限より5時間半も遅い22時付けで、全体要旨が政府に正式に送付されたものを足立氏が公開しているが、この見出しレベルのものだけで、しかも「問合せ不可」(足立流に言うと「趣旨が不明でも勝手に忖度して準備せよ」)と設定された状況で、役所が答弁を作れるクオリティーのものだったと胸を張って言えるのだろうか

少なくとも森氏もしくは国民民主党サイドは、時間ごとの提出ペーパーを開示してないはずだったが、維新側の主張(と、それに妥当性があると解釈している私ら国民の考え)と矛盾している。ブログでも触れたのは、あくまで「事実です」の一辺倒だった。

最終防衛ラインとちぐはぐな文面

事実関係の成否はさておき、文面解釈に話を戻せば、「最終防衛ライン」は、森氏らの主張は全面的に正当性があるという考えの元に設定されているように見える。

森氏が全面的に「正しい」と言うのであれば、そこで見解を打ち切って維新やアゴラを罵倒し返せばよい。ところが、先日の奥野総一郎氏のブログもそうだったが、玉木氏は

様々なやりとりの中で、結果として霞が関の皆さんが遅くまで職場に残ることになってしまった

などと弁解してしまっており、意味が通らなくなっている。その「様々なやりとり」のプロセスを解明することが本件の真相解明に必要だが、奥野氏も玉木氏も元官僚。国会待機の不毛さなどは熟知しているはずで、「良心」が疼いたように見えてしまう。

そしてブログでは終盤に国会改革の話を持ち出しており、それが今回の騒動の本質であることに違いはなく、それも「対決型より提案型」の玉木カラーなのだが、池田信夫もツイートで苦言したように「すり替え」に思えてしまって、結果的に説得力を欠いてしまっている。

玉木氏には筆者も知るらつ腕の広報ブレーンがいると噂で聞いていたが、最近は力を貸してないのだろうか。もし、その人が助言するのであれば最終防衛ラインは、森氏の正当性の前には置かないはず。

森氏の全面降伏を「大将首」として、その首を守りつつ党のイメージダウンを回避したいのであれば、官僚の答弁作成が可能だったかのゾーンをにらみつつ、世の中が納得するところで、党の過半が渋々納得するところにラインを引いたはずだ。

ちらつく小沢氏の影に苦悩?

党内事情を勘案すると、原英史氏の毎日新聞報道を根拠不十分で「真実」と断定した篠原孝氏は、原氏に提訴されて係争中ということもあり、安易に妥協はできない側面はあるのか。

いや、そんなことよりも、個人情報漏洩すら謝罪できない森氏は、とにかく原氏憎しの憎悪で凝り固まって暴走。そして、原氏にことごとく論破され、音喜多議員にブログ削除の圧力もかける失態までおかしている。

しかし、それでもやりたい放題なのは、その背後で、小沢一郎氏が隠然たる存在感を放っているからだ。国民民主党に自由党が合流して7か月。何度も私がツイートしているので、玉木氏らは不快に思っているはずだが、小沢氏に「軒を貸して母屋を取られた」印象が強い。

企業のM&Aは、戦略や管理体制、従業員意識、情報システムなどの統合作業(Post Merger Integration:PMI)が成否をわけるが、玉木氏のブログを読んでいると、いかにも「対決型野党」の森氏の質問通告が正当だったとした上で、国会改革など森氏らが言わない前向きな「提案型」の話もしているあたり、国民民主党が旧自由党とのPMIに苦悩しているように感じられる。

なお、森ゆうこ氏の質問騒動はこれまでネットで書いてきたが、ネットをやらない世代の皆さんにも問題を知っていただきたく、来週発売の「Hanada」、「正論」に寄稿した。一部重複もあるが、前者は政局面、後者は政策面に力点を置いて書き分けた(「正論」は初寄稿)。問題をウォッチしてきた皆さんにも、これまでの整理を含めてご覧いただければ幸いだ。

新田 哲史   アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」