共通テスト:鼻出しマスク失格受験生に追試の場を!(19日編集部追記) --- 奥野 淳也

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※編集部1月19日午後追記:午後3時過ぎのNHKニュースによると、本記事の執筆者が、本人プロフィールにも記載されたピーチ航空事件において、機長らの指示に従わずに旅客機の運航を妨げた威力業務妨害などの疑いで大阪府警に逮捕されたことが判明しました。編集部として、これを重く受け止め、同容疑者が「マスパセ」としての主張を記載した昨年12月13日の記事を取り下げます。

※編集部1月19日午前追記:19日の報道で、本記事が取り上げた受験生(49歳)が不退去容疑で警視庁に現行犯逮捕されていたことが判明しました。本文中に言及のある通り、本文執筆時には知り得なかった情報であり、記事執筆の前提条件が変わっていることにご留意ください。

大学入試共通テストで、マスク着用問題による不正行為失格が発生した。

Gulcin Ragiboglu/iStock

受験生の人生をかけた入試の場で、運営者側のマスク要請による理不尽な不正認定が行われたことは極めて遺憾である。大学入試センターが、マスク着用を巡る不正行為認定という前代未聞の決定を取り消し、将来ある受験生に追加試験の場を与えることを強く求めたい。

17日午後9時に大学入試センターが会見し、その発表内容に基づきメディア各社が報道しているだけであるため、本稿執筆時には事件の詳細は明らかになっていない。朝日新聞によると、この受験生は、監督者からマスクで鼻を覆うよう6回要請を受けたが、拒否したとのことである。

受験生の側にも当然言い分はあるだろう。試験という緊張を伴う場で鼻を完全に覆うのは呼吸を苦しくすることも、初めて行く大学の講義室で試験監督との意思疎通がうまくいかなかった可能性もあるだろう。

そもそも今回、大学入試共通テストで導入されたマスク着用規定は、大きな問題を孕んでいた。最大の問題点は、全受験生に口鼻を覆うマスク着用が常時義務として求められたことである。基本的な立場は以下の通りである。

  • 全受験生に口鼻を覆うマスク着用を義務化する。(フェイスシールドのみ不可)
  • 配慮申請が必要な場合は事前に医師の診断書を添えて行う。
  • マスク着用をしない場合は、受験ができない。

私は常々、非合理的なマスク着用”強要”規定の適用に反対する立場を取ってきた。特に本事例は、入学試験という人の人生を左右する重要な場面での話である。

第一に、診断書の提示という重い例外要件を課すことは、マスク着用困難の受験生に萎縮効果をもたらす。健康上の理由で着用困難の受験生に配慮することは、当然の措置である。しかし、配慮申請方法の案内が事前配布の要項でも十分に示されておらず、受験生が提出を躊躇することにもなりかねない状態であった。また、医師の診断書添付という重い要件を求めていることも、受験生に対する圧迫になる。

今回の受験生の場合、事前の診断書の提出はなかったとのことである。しかし、例えば当日の口頭による配慮要請を大学入試センターが認めていれば、受験生が理由を提示するなどして例外適用を求め、失格処分を免れたであろう。

第二に、マスク義務化が発表されたのが、出願後のかなり遅い時期であったことだ。大学入試の一次試験は、毎年9~10月に出願期間が設定されている。その出願が終わった後に、常時マスク義務化という受験要件に関わる重要な条件が後出し的に提示されたのは由々しきことである。感染症の拡大に伴って不透明な部分もあっただろう。しかし、運用の詳細が十分に周知されないままに、口鼻を覆うマスクの常時着用ルールが施行されることになった。

ルールの周知が不十分で、コロナ禍で試験実施自体にも混乱をきたしていた最中においては、失格を含む極端な一律強制でなく、推奨要件の位置に留めておくべきだっただろう。この受験生は、大学入試センターの非理性的な制度運用の被害者である。

第三に、現場運用の指針として受験生に対する想定が稚拙だった。受験生がマスクをしなかった場合「受験できません」と、大学入試センターは事前に説明している。診断書無しでマスクを着用しなかった場合、そこで受験は打ち切りになり、後日診断書の提示を要求して追試験の受験を認めるとのルートを想定していた。しかし、本試験の当日受験機会喪失という措置は過剰であり、受験生の不満を喚起するだろう。

緊張をほぐすために時々マスクを外して深呼吸したり、マスクから鼻を一部出したりするのは、試験を受ける健康な状態を維持するために正当である。それすら禁じる理不尽な大学入試センターのマスク規定は唾棄すべきものである。官僚主義と権威主義の権化である大学入試センターの所業の中でも、最悪なものの一つが今回の鼻出しマスク受験生失格事件だろう。

また、このような規定を真に受けて機械の歯車としてこき使われる大学人も、その知性の使い方を恥ずべきである。

運営者の大学入試センターは、「他の受験生への不安を与える」等と抗弁するかもしれない。しかし、正しいマスク着用方法を実践しない受験生を気にする人がいるのであれば、自分自身で自衛の対策をすればいいだけである。気にする受験生の方が、マスクを2枚重ねるなり、シールドを着用するなりすればいいだろう。受験生間のトラブルを懸念するのであれば、それこそ教育者である試験監督が場をおさめればいい。

結局、問題は大学入試センターがクラスター発生による世間からの非難の可能性を重く見過ぎて、受験資格の喪失まで含む過剰なマスク義務化を行ったことである。座席の位置が十分に離れ、試験中の私語もないような会場の教室で、集団感染が起こるだろうか。全員厳密なマスク着用がないと、会場の安全が保たれないとは到底言えないだろう。むしろ、マスクの有無ではなく、休憩時間中の会話の方が問題だろう。頭隠して尻隠さずの中途半端な感染対策が、受験生一人の貴重な人生の時間を奪ったことに、強い憤りを感じる。

知識偏重型でなく思考力を問うことを目的とした新共通テストで、マスク着用の方法くらいも受験生自身が決められないのであれば、本末転倒だろう。自分で物事を考える主体性すらない、管理されるだけの学生を選抜するだけの装置が「共通テスト」であるとするならば、多大な社会的資源を投じてそのような無意味な入試をする必要もない。

大学入試センターは、世間の批判に真摯に耳を傾け、コロナ禍での異例の不正行為失格の決定を取り消すべきだろう。

入試シーズンは始まったばかりである。人生を掛けた一世一代の入試の場で、不合理なマスク義務化を課すのは即刻撤廃すべきだ。今回の大学入試共通テストの運用は、他の中学・高校・大学などの入試にも影響を与える。これから行われる他の入試においても、常時マスク義務化・例外申請には診断書提出・マスク規定での受験停止などという理性を欠いた対応が追随されないことを強く望む。

奥野淳也 マスク問題評論家
ピーチ航空事件でマスク着用拒否トラブルにて降機。マスパセ(マスク未着用途中降機乗客)として、SNSでマスク問題について発信。

※編集部より:前回、執筆者の勤務先等への影響を考慮してペンネームでの投稿を特例で認めましたが、今回は本名で掲載いたします。原則実名の編集部方針に変更はございません。
(1月19日午後追記:同日午後3時過ぎのNHKニュースによると、本記事の執筆者が、本人プロフィールにも記載されたピーチ航空事件において威力業務妨害などの疑いで大阪府警に逮捕されたことが判明しました。編集部として、これを重く受け止め、同容疑者が「マスパセ」としての主張を記載した昨年12月13日の記事を取り下げます。)