そろそろPDFの多用を止めませんか

山田 肇

PDFが大好きな人々がいる。総務省人事の報道発表には「1月15日付の総務省人事(2名)について、次のとおり発令しました。」とだけ書かれ、「次のとおり」をクリックするとPDFが表示され発令内容が読めるようになっている。

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どうしてこんな面倒な方法を取っているのだろうか。

情報が変造されるのを防ぎたい、と説明する人がいる。しかし、世の中にはPDFの中身を書き換えたり、パスワードを消したりできるツールがいくらでもある。簡単なキーワード検索で無料ツールが入手できる。

どんなデバイスでも同じように表示したいため、と説明する人がいる。PDFは「ポータブル・ドキュメント・フォーマット」の略で、「ポータブル」というのは、デバイスの種類やOSに左右されない、という意味である。しかし、そもそも総務省の報道発表はHTML形式で書かれており、HTMLもデバイスに左右されない記述言語である。

PDFは紙に印刷されたように見える。これもPDFにこだわる人が好きな特徴である。しかし、大切なのは情報の中身であって見え方ではない。「紙面ビュワー」で縦書きの新聞記事を読む人がどのくらい残っているか考えれば、わかるだろう。

PDFにはアクセシビリティの問題がある。Wordで文書を作って「印刷」を選ぶと「Microsoft Print to PDF」という選択肢がある。しかし作成されるのは画像PDFだから、文書の中のテキストが読み取れない。これでは、視覚に障害のある人は情報を取得できない。

これを避けるには「印刷」の下にある「エキスポート」からPDFを作成すればよい。しかし、このように二種類の、出来上がりが異なるPDF作成方法が並んでいること自体が煩わしい。

そのほかにも問題がある。スマートフォンでPDF文書を見ると小さなテキストで表示されるのは、画面サイズに合わせてテキストを折り返す機能がないからである。ブラウザによってはPDFが自動的に別のタブで開かれることがあるが、別のタブで開いたと視覚で認識できない人は、どうしてブラウザの「戻る」ボタンを押してもページが戻らないのか理解できない。

GOV.UKではPDFの使用をできるだけ避ける、というのが英国政府の方針だそうだ。GOV.UKの担当部局がそのように宣言している。また、オーストラリアの人権委員会は2014年時点で「PDFはアクセシビリティを十分に満たす形式ではない」との見解を表明している。

わが国では、大学での遠隔教育で、教員がPDFで教材を配り、学生はPDFでレポートを提出することが当たり前に行われている。そこには、障害のある学生への配慮も、障害のある教員への配慮も不足している。

ペンシルバニア州立大学は、PDFはWordやPPTと併用するように求め、どうしてもPDFを用いたいときには「タグ付き」PDFにするように求めている。メルボルン大学は、Wordの見出し機能を利用して文章を構造化してから、PDFにエキスポートする具体的な手順を示している。

わが国では、総務省の報道発表に見られるように、PDFが依然として主流である。PDFの多用を止めるように働きかけるのは、デジタル・アクセシビリティを主管する総務省の責任である。それでもPDFという人には、メルボルン大学のような簡単なテクニックも周知すればよい。