情報戦略「麻痺戦」とは -中川信博-

2009年11月20日 19:20

アメリカ合衆国オバマ大統領が来日、13日におこなわれた日米首脳会談とその後の共同記者会見で、沖縄の米軍普天間飛行場移設問題について、鳩山総理は「できるだけ早く」結論を出す、と大統領に語りましたが、翌14日には記者団に対し、沖縄県名護市に移設する現行計画にこだわらない考えを示し、来年1月の名護市長選を見極めて判断する可能性を示唆したとの報道がありました。この報道を受けて長島防衛政務次官はNHKの番組で「ビックリした」と戸惑いを隠さなかったといいます。

一方アメリカ軍兵士によるひき逃げ事件では、容疑者が14日以降日本側の取調べを拒否しており、沖縄の駐留アメリカ軍を巡る問題は非常にデリケートな状況にあるといえるでしょう。


本稿はその沖縄問題を国家IT戦略にからめて考えたいと思います。

-軍事革命RMA(Revolution In Military Affairs)-

過去にアメリカ海兵隊の軍事戦略の大転換が湾岸戦争以降あったことを書きましたが、その軍事革命RMAと沖縄問題は密接に関わっております。

戦争が産業社会の戦争から情報社会の戦争へと変わり、消耗戦から麻痺戦へ移行しました。地域的には冷戦時のユーラシア中心部から東ヨーロッパ地域の、いわゆるハートランドから、東南アジアから中東にかけるユーラシアの海岸部の不安定の弧、ようするにリムランドになり、その対称は国家ではなくテロリスト組織に変容しました。この戦いを非対称戦と呼称しています。

RMAがアメリカ軍におよぼした端的な例として、一つの標的の破壊に使用した爆弾の数で比較しますと、あのハイテク戦争、湾岸戦争を1としたとき、第二次世界大戦が10,000、ベトナム戦争が200、イラク戦争が0.2となります。この技術革命と非対称戦が、米国の経済状況とでトランスフォーメーションとなってあらわれているのです。

もはや非対称戦には大規模な部隊は必要なくなりました。機動力とその部隊を指揮できる強力な情報通信システムが安全な地域にあればよいのです。ですから北朝鮮から近い在韓司令部と在日司令部とを座間に統合する計画です。さらに人員をなるべく本国に集中させながら削減して、約20年間で154億ドルの経費削減を目指しています。

-情報戦と思想戦-

戦争が消耗戦から麻痺戦へ移行して、より重要となったのが、情報戦と思想戦です。情報戦略の一端は「情報戦略も見直しを」の稿で書きましたが、収集分析といわれる分野ばかりではなく、このハイテク機器を支える通信や情報システムに活発な水面下の戦いが繰り広げられていると考えられます。自軍の通信を含む情報システムの防備および敵、情報システムの破壊は経済効率および、人命尊重の現代ハイテク情報戦には不可欠なのです。よって敵対国のみならず何らかの企図をもった政府および軍は、この一連の情報システムに向けたアタックを敵対国ならびに関係国に対し日常的におこなっていると思われます。-推定でしかないのは、これらのことは当然秘密裏におこなわれ、なかなかそれを立証する事実がないからです-

一つの例ですが、今年の5月に、Gumblarというコンピュータウイルスが流行しましたが、10月になって、このウイルスが機能を強化して再び流行しました。このウイルスが情報ネットワークに対し、どのような影響があったかは分かりませんが、もし潜伏していた場合、日本経済が一時的に麻痺するような混乱状態が起こる可能性は否定できないでしょう。そして感染分布を国別で分類するとハイテク産業を多くかかえる国がランクインしていない事実があります。この件を即なんらかの企図と結びつけることはできませんが、可能性を否定するだけの根拠も希薄です。

先のエントリーにあげた事例の、意思決定者と部隊との通信破壊という手法も麻痺戦の一部であり、その延長線に情報社会の混乱そして機能停止があります。もはや爆撃はじめ実力行使というのは最終手段でしかなく、経済封鎖や通信妨害で敵の攻撃能力の根拠を奪う戦略が主戦略といえるでしょう。

さらに麻痺戦の戦略として重要なのが思想戦です。90年代ジョセフ・ナイは「ソフト・パワー」を提唱しました。ビジネスでもそうですが、交渉相手方へ好印象を持たせるため様々な演出をします。それは目的達成の戦略であるので、誠意ある態度とは違います。ナイはアメリカのポップミュージックやマクドナルド、スポーツやジーンズなどが、覇権的アメリカの印象をずいぶんやわらげる効果があったと分析しています。

そのソフトパワーを戦略的に相手方へ作用させるのが思想戦です。思想戦の歴史は古くギリシャ神話の神々の戦争からみられます。過去に噂や手紙、新聞などでおこなわれましたが、現代ではインターネットや携帯をつかって瞬時におこなわれるようになりました。近年、兵站や広報などが民間に委託されるにいたって、倫理なき過剰サービスが提供されました。もはや事実や世論というのは情報を通して、瞬時に且つ自由に創れる時代といってもいいでしょう。
-共産国家のお家芸といっても過言ではないでしょう。中国共産党、ソ連共産党のそれは群を抜いています。東西ドイツが統一したあとわかったことですが、西側でスパイとして思想工作をしていた、文化人、学者、ジャーナリスト、学校の教師から一般人は、実に17万3千人が登録され、実際にスパイ活動に従事していたのは9万人にのぼるといわれています-

もう一つ例をあげます。近年韓流ブームというのがありました。きっかけは1999年の韓国映画「シュリ」がヒットし、その後ドラマ「冬のソナタ」がブレイクします。最初の放送は2003年にBSで翌年は地上波で放送されます。オリジナルは韓国で2002年に放送されており、この間2年です。放送関係者に伺うとこの手のドラマ放送は2年前くらいから企画され、約1年前にはほぼ決定されていて-関係者の方がおりましたらご指摘ください-、ブームだ、すぐに放送しようということにはならないということです。NHKが番組をヒットさせるためにブームを創り出したのか、あるいは偶然かそれは分かりません。

しかし同時期になにがおきたのか、ということを考えてみますと気になる符合があります。1998(H10)年10月に野党公明党がはじめて衆議院に提出した「永住外国人に対する地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権等の付与に関する法律案」です。2000年の森内閣で自自公連立で与党入りしたあと、再びこの法案が活発化しましたのが、保守党が自民党へ吸収され、自公連立となった2003年ころからです。冬ソナが地上波放送される翌2004年には法案が可決されるような状況が起こり、外国人地方参政権に反対する会が発足しています。当然二つの事項を結びつける確実な情報はありませんが、否定するだけの十分な情報もまたありません。

-平和は戦争の準備期間にすぎない-

紛争関係国の一般的認識では海上封鎖は戦争状態であると認識します。飛行機が登場する前では海上封鎖とは経済封鎖をすることでした。よって経済封鎖をしていることは戦争状態にあることなのです。日本は北朝鮮に対し経済封鎖を事実上しています。ですから北朝鮮は日本と紛争状態にあると認識しています。また日本は国連やアメリカと協調して、紛争地域の政府に対し同様な処置をとっています。よって対象国政府は、日本と紛争状態にあると認識している可能性があります。

現代戦ではドンパチはすでに打つ手がなくなった最終手段でしかなく、経済的で安全な麻痺戦で相手を屈服させようとします。また侵略者はいきなり武力で威嚇するのではなく思想や情報、人、経済などソフトパワーを活用して侵略を試みます。

アメリカは不安定の弧に対応するため、その地域を囲むようにカタール、キルギス(ロシアの干渉で使用できなくなる)、イギリス領ディエゴガルシア島を基地として使用しています。そしてこの不安定の弧の東の端に日本が位置しています。実働部隊の基地としては紛争地域に近い、ディエゴガルシア島が重要ですが、逆に近いというのはリスクが大きいので、バックヤードとしての日本の位置、とくに沖縄基地の重要性がお分りいただけると思います。-給油艦やイージス艦を日本が保有している理由です-同時にその司令部-テクノサイト-が日本にあるということは、敵対国や侵略国は日本に麻痺戦-情報戦と思想戦-をしかけてきてもおかしくはないということです。

保守派のなかにも沖縄の県民負担や政府分担金が過酷なことに異議をとなえ、同盟擁護派をきびきしく糾弾しています。-ちなみにNATO諸国合計(ドイツ、イタリア、スペイン、トルコ)で兵数106,898人、負担金2,484millionに対し、日本のそれは41,626人、4,411mです。韓国が38,725人、843mですから、わが国は脈絡なく分担していることが分かります-しかしながら基地問題がアメリカの世界戦略を大きく遅延させていることは確かな事実です。

私たち日本国民は今、日本がアメリカと共同で麻痺戦を戦っているという認識をもつ必要があると思います。平和な状態というのは戦争と戦争に間の状態あり、次の戦争への準備期間中であるというのが紛争当事国の考え方です。でありますから政府はこれまで論じてきたような状況下にあるという前提で意思決定をする必要があるとおもいます。
-ミサイル攻撃や爆撃、またはテロ攻撃があるというのではなく、通信システムや情報システムのような社会インフラなどへの技術的アタックや、思想工作のようなソフトパワーを利用したメディア戦略のような、目に見えざる高度麻痺戦を仕掛けてくる可能性は否定できない、もしくはもう始まっているということを常に考える必要性があるということです-

これは好むと好まざるとに関わらず、すでにそうなっていることを認識しなければならないと思います。アメリカの安全保障関係者にしてみれば「おい戦時中だぜ。ぐずぐずしてると石油がこなくなっちまうぜ。どうするんだ?」という感覚なのではないでしょうか。

追記
想像の話ですが、西先生池田先生のスーパーコンピュータの議論のように、300億以下で調達できそうなものを官僚が、1000億も予算計上しているのは、防衛省がなかなか憲法との関係上、計上できない麻痺戦対応用予算を、合法的に流用しようとしているのであれば、それはそれですごい発想だと感心しますが、おそらくちがうでしょう。

事業仕分けチームには当然安全保障の感覚は0でしょうから無駄と判断して情報戦に対する隠れ予算を廃止しないことを望みます。以前、総務省の、大塚寿昭元情報セキュリティー担当CIOと話したとき、政府機関ですら、セキュリティー対策は予算との関係でままならない状態で、民間は推して知るべしとおっしゃられていました。いずれにしても日本のITは民間でも国家戦略でも役に立たないことは確かのようです。情報化社会の現在はウイルス一つで国家経済を数日間麻痺させるのは簡単なことです。

*OSはしょうがないにしても、国産のウイルスソフトくらいは採用すべきだと思いますがいかがでしょうか。

参考サイト
米軍再編」なにがどう変わる?
情報化時代の戦争  RMA (Revolution In Military Affairs)
参考文献
イラク戦争 軍事革命(RMA)の実態を見る 冨澤暉編著
ドキュメント 戦争広告代理店 高木 徹著
アメリカ海兵隊のドクトリン 北村 淳/北村 愛子著
海の生命線(シーレーン)?日本に原油・天然ガスが届かなくなる日 オイルシーレーン防衛ハンドブック 北村 淳著
http://www.defenselink.mil/pubs/allied_contrib2004/allied2004.pdf
ソフト・パワー 21世紀国際政治を制する見えざる力 ジョセフ・ナイ著

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