バリューとは、valueであり、価値のことだが、投資の世界では、バリューは価値そのものではなくて、価格と価値の差(価格を上回る価値の部分)のことである。だから、そのような特別な意味をこめて、敢えて片仮名でバリューと呼ぶ。
バリュー投資は、投資の基本である。しかし、もっと基本的なことは、適正価格(価値をそのまま体現した価格、いいかえれば、バリューがない価格)で資産を取得しても、投資収益はあるということである。そのバリューがないところにおける投資収益の期待値が、まさに、投資の本源的収益である。バリュー投資とは、適正価格を下回るところで投資をして、本源的収益を上回る追加的収益を挙げようとする試みにすぎない。
では、この本源的収益とは何か。簡単である。資産を所有することに必然的に付随してくる金融収益である。例えば、金利とか、配当とか、賃料などの金利的要素である。そもそも、このような必然的な金融収益の期待値を内包するものだけを資産と呼ぶのである。
さて、このような本源的収益を前提にして資産の価格形成が行われている状態というのは、様々な資産が適正価格、即ち、価値そのもので取引されている状態である。これを効率的な状況という。投資の基本的課題の第一は、市場の効率性を前提にしたうえで、本源的収益を得ることであり、その源泉を分散することである。これが、リスク分散といわれることの本質である。
しかし、現実には、市場は完全には効率的でない。つまり、価値と価格は一致しない場合が多い。ならば、当然に、基本的な資産配分を維持しつつも、価格が価値のよりも低いもの、即ち、割安なもの、バリューのあるものを相対的に増やすであろう。これが資産運用の第二の課題である。
故に、バリュー投資は、本来は、極めて保守的なものある。つまり、価格が価値に対して割高になることまでを、想定するものではないのである。割安なとき、即ち、バリューのあるときにのみ、新規に投資するか、配分を増やし、バリューが解消してしまえば、配分をなくすか、本来の基本配分へ戻す、というのがバリュー投資の基本である。
なぜ、保守的なのかというと、価格が価値を下回る部分、即ち、バリュー部分が、価格の下落に対する緩衝材の役割を演じるからである。この緩衝材の機能を、安全性の糊代(マージン・オブ・セイフティー margin of safety)というのである。
ところで、大事なことを最後に一つ。バリュー投資が成り立つためには、本源的価値を知らねばならぬ。価格を追っかけても投資にならない。価値判断なきところ、バリュー投資なし。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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