サウジの政府高官はニューヨークを、アドバイザーとして起用されている欧米の財務専門家たちはロンドンを、海外の上場市場として適当と判断していると伝えられるサウジアラムコ(アラムコ)のIPO。果たして目論見通り来年(2018年)後半に実行できるのだろうか?
我が東京証券取引所(東証)は、7月18日のBloomberg記事「サウジアラムコ上場、対香港で東京の優位性に自信―日本取引所CEO」にあるように、規模から考えて欧米と取引時間帯が異なるアジアでの上場が必須で、その場合は東証が最も有利だ、と考えているようだ。でも、この記事が紹介している海外企業の上場会社数をみると、1991年に127社を数えていたのだが現在ではたったの5社に減少している。また、この26年間、一度として増えた時期はなく、一直線に減少を続けているのはなぜだろうか? 何か、制度的に欠陥があるのではないだろうか。金融の専門家はどう判断しているのだろうか、と、弊ブログ#333「サウジアラムコの東証上場はあるのか?」(2017年3月31日)で投げかけた疑問をもう一度口にしておこう。
さて今日のFTが伝えているのは、サウジアラムコの企業価値は気候変動政策も影響する油価の影響を強く受けるもので、サウジ当局が主張している2兆ドルから約4割減になるのでは、と、ある環境派グループが試算を発表した、というものだ。
記事の原題は “Saudi Aramco’s value at risk from climate change policies” (around 1:00am on 14 Aug 2018, Tokyo time)で、サブタイトルが “Global warming targets could reduce oil major’s worth to $940bn, says campaign group” となっている。
記事の要点を次のとおり紹介しておこう。
・Oil Change Internationalという環境派グループが独自に試算したところによると、パリ協定が遵守されるような政策措置が取られると、アラムコの企業価値は約40%減価されるという。同組織のGreg Muttittは「NYとLDNが上場を確保しようと争っているが、両者とも投資家にとって価格および気候変動リスクがどれだけ高くなるのかという点について十分な注意を払っているとは思えない」と警告した。
・アラムコはコメントを避けた。
・国家の経済構造変革計画を主導しているサウジのムハンマド皇太子は、アラムコの企業価値を2兆ドルとしているが、この数値はあちらこちらで再検証されている。FTの分析では、8,800億ドルから1兆1,000億ドルになる。
・仮に1兆ドルとしてもアラムコはIPOにより500億ドルを調達でき、世界最大のIPOになる。
・サウジ当局は、アラムコと同社のアドバイザーたちとともに、もし解決できないと影響を与える諸点をクローズアップし、同社と国家の財務関係を紐解く作業をおこなっている。
・今年になって、アラムコの法人税を85%から50%に引き下げる国王令が出されたが、一方で、公式には発表されていないが、同社の財務状況をきれいにするいくつかの方策が取られている。
・IEAの、現在の方策とすでに発表されている計画が実行されるという「新政策シナリオ」では、石油価格は2020年に79ドル、2050年には137ドルに上昇する。このような環境下では、アラムコの企業価値は約1兆5,000億ドルだ、とMuttittはいう。気温上昇を2度以下に抑えるというパリ協定が3分の2だけ成功するという「66%シナリオ」では、2020年に73ドルとなり、その後緩やかに落ち込み、2050年には61ドルになるとしている。このシナリオでは9,400億ドルになる、とMuttittは言っている。
・サウジでIPOを推進している人々は、サウジの低い生産コストは、現在の50ドル水準からさほど上昇しないケースでも、世界中でもっとも魅力あるものだ、また、環境に与える影響も、他の国で生産するより少ないのだ、と主張している。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2017年8月14日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。