企業の経常運転資金に対する金融は、金融の古典的分野だ。企業活動においては、在庫を保有することや、取引の決済に時間差の生じることは避けられず、経常的に運転資金の需要が発生するのだから、そこに金融をつけることは、金融の社会的機能として極めて重要なことである。
さて、経常運転資金に関する金融は、普通は、企業に対する金融、即ちコーポレートファイナンスになるのだ。しかし、例えば、飛行機の購入代金に対する融資なら、飛行機というモノ自体を貸す仕組みに転換しているのが現代の金融なのだから、理屈上は、経常運転資金も、その発生の原因に遡って解体することで、モノやコトに対する金融、即ちオブジェクトファイナンスに再構成できるはずである。
在庫保有については、さすがに企業の固有性の高い製品在庫は難しくても、一般性の高い原材料在庫はオブジェクトファイナンスの対象になり得る。原材料のなかで最も一般性があるのは、天然資源である。例えば、もともと、森林資源は製紙会社等が所有していたのだが、財務の効率化のために投資家に売却されるようになり、そうして生まれたのがティンバーファンドである。ティンバーとは、生きて立っている木のことである。
製品在庫といえども、一般性のあるものならば、オブジェクトファイナンスが可能である。代表的なものは、牛の肥育産業における牛そのものである。牛は、肥育期間中は、製品在庫なのであるが、この牛を担保にした金融は広く行われている。いわる動産担保金融、即ちアセットバックトレンディングである。
さて、運転資本はどうか。運転資本というのは、売上代金を回収するまでに一定期間を要することから、その間の資金の調達が必要となることに起因するものである。ならば、取引成立と同時に第三者が代金支払いを肩代わりすれば、運転資本の調達は必要でなくなる。肩代わりをする第三者は、一定の金利相当額を得て行うので、それ自体が一つの金融機能として独立する。これは、取引、片仮名でいえばトランザクションというコトを対象としたオブジェクトファイナンスだから、トランザクションファイナンスと呼んでおこう。トランザクションの代表は貿易だが、貿易を対象としたトランザクションファイナンスの歴史は非常に古いものである。
また、商取引自体のなかに資金決済を繰り延べる手法を内包させることも、長い歴史がある。専門の金融機関ではなくて、商社等が金融機能を代替してきたのだ。理論的に、この取引に内包された金融は、トランザクションファイナンスとして、外部化させ独立化させることも可能ある。
経常運転資金に対する金融のような古典的分野にも革新を起こす、それが現代の金融なのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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