顧客の利益を守るためのリスクアペタイトフレームワーク

金融機関の経営管理の新しい枠組みであるリスクアペタイトフレームワークは、煎じ詰めれば、金融庁が説明しているように、「自社のビジネスモデルの個別性を踏まえたうえで、事業計画達成のために進んで受け入れるべきリスク」の定義に帰着する。「進んで受け入れるべきリスク」だからこそ、リスクに対する能動的なアペタイト、即ち食欲が問題になるのである。

また、金融庁は、「顧客との共通価値の創造」ともいう。ここでは、徹底した顧客の視点での価値創造が金融機関の利益の源泉であり、顧客の利益の上にしか金融機関の利益はあり得ないこと、いわば、利益至上主義から顧客至上主義への転換が強く謳われていることは論を待たない。

故に、顧客の視点で構築された「自社のビジネスモデルの個別性」を前提とし、顧客との共通価値の創造を頂点において、そのための能動的なリスクテイクのあり方を統制するものとして、リスクアペタイトフレームワークはあるべきなのである。

さて、例えば、外貨建て等の貯蓄性保険について、リスクアペタイトフレームワークを適用してみよう。まずは、保険会社の経営のあり方として、このような外貨建て等の貯蓄性保険を開発することは、一定の経営のリスクを積極的にとることだが、そのリスクテイクのありようとして、本業の保険業の低迷を補完するための単なる利益追求でないとしたら、どのような顧客の利益が前提されているのか。

また、販売会社である銀行等の経営のあり方として、このような外貨建て等の貯蓄性保険を販売することは、一定の経営のリスクを積極的にとることだが、そのリスクテイクのありようとして、本業の銀行業の低迷を補完するための単なる手数料稼ぎの利益追求でないとしたら、どのような顧客の利益が前提されているのか。

この二つの問いに明快な解答を与えるものとして、金融機関のリスクテイクの正当性を客観的に説明できるための枠組みとして、リスクアペタイトフレームワークが機能するのでないとしたら、そこに、何の意味があるというのか。

つまり、顧客の利益を損なう可能性という最低最悪のリスクを敢えて積極的にとることについて、経営統制上、断固として排除できるような仕組みでないとしたら、リスクアペタイトフレームワークなど、何ら意味がないということである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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