今週のメルマガ前半部の紹介です。意外と知らない人が多いんですが、経営幹部でもない一般の従業員が会社からの指示で引っ越す全国転勤のような仕組みは、日本以外にはほとんどありません。転勤制度そのものについて疑問を呈する論調もメディアでちらほら目にするようになりました。
そもそも企業はなぜ従業員をあちこち転勤させたがるんでしょうか。そして、キャリアデザインを考える上で、個人は転勤といかにして向き合うべきなんでしょうか。いい機会なのでまとめておきましょう。
転勤は企業内の職安みたいなもの
なぜ会社は定期的に従業員をわざわざ転勤させるんでしょうか。また、なぜ労働組合はそれを黙認しているのでしょうか。そして、なぜ裁判所も「転勤は拒否できない」なんて判例を残しているんでしょうか。
その理由はやはり終身雇用制度にあります。たとえば東京に余剰人員がいる一方、大阪では人手不足な場合、東京から大阪に誰かを転勤させることで会社は人員調整することができ、組合は組合員の雇用を守ってもらえることになります。だから労組も黙認し、判例も「合理的な転勤なのに拒否したなら解雇もアリ」となっているわけです。
解雇規制がもっと緩やかな社会なら、東京に余剰人員がいれば解雇し、大阪で人手が足りなければ大阪で新規に採用するでしょう。企業も労働者も、労働市場を通じて問題の解決を図るはず。要するに、そういう労働市場が果たすべき役割を人事部が“転勤”により代替しているということです。
日本経済がいけいけどんどんだった80年代までなら、(男女間格差に目をつぶれば)これはこれで有効な仕組みでした。最低でも課長くらいには出世して50歳で1200万くらい貰えていれば、嫁さんを専業主婦として家事一切を任せつつ、家族帯同で全国どこでも手軽に転勤できたからです。
でも「7割が課長にすらなれない時代」が到来し、昇給も40歳くらいで頭打ちになってしまった現在、多くの家庭では共働きが当たり前の状態となっています。筆者の周囲でも専業主婦してる人って開業医と結婚した人くらいですね。そうなると状況は一変します。
どちらかが転勤を命じられるたびに、もう一方が合わせて会社を離職するか、単身赴任で別れて暮らす他ありません。一度離職してしまうと、落ち着いてから再就職しようにも非正規雇用の口しかないという声もよく聞きます。そうなると、フルタイムの正社員で働き続けた場合と比べ、生涯賃金は2億円ほど下がるとの試算もあります。
一方、日本で昔から多い、第一子出産後に正社員の職を退職し、子育てが落ち着いてからパートで再就職した場合の生涯所得は6,147万円である。よって、出産等なしで働き続けた場合と比べると、生涯所得は2億円のマイナスとなる。
出典:大卒女子、育休2回で生涯所得2億円!?-女性が働きやすい環境を作る重要性(ニッセイ基礎研究所)
具体的に言うとこんな感じです。
「アンタが転勤するって言うから仕事辞めてパートになったのに、なんで40過ぎてもヒラなのよ!この甲斐性なし!」
まとめると、転勤制度およびそれを必要とする終身雇用制度は多くの世帯にとって完全に割に合わないものになっているわけです。だから「なんでこんな不合理なことしなきゃなんないの?バカなの?」という論調が急速に広がっているわけです。
以降、
転勤の裏の顔
ビジネスパーソンに贈る、転勤との正しい戦い方
Q:「解雇規制を緩和すれば本当に会社は人事権を放棄するのでしょうか?」
→A:「解雇規制緩和した瞬間に、日本の景色は一変するでしょう」
Q:「査定評価と昇進はどれくらい関係ありますか?」
→A:「だいたい5割くらいです、あとの半分は……」
雇用ニュースの深層
・やっぱりなんにも考えてなかったメガバンクトップ
残念ながらメガバンクはこれからじりじり地盤沈下していく可能性が極めて高いです。
・ハートに火をつけろ!パナの新制度が要注目なわけ
実は人間って出世そのものにはあまり興味ないんですね。自分の好きなものを必要とされる場所で取り組むときこそ、潜在能力をフルに発揮できるんです。
Q&Aも受付中、登録は以下から。
・夜間飛行(金曜配信予定)
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2018年6月7日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。