ニューヨークの国連本部で第73回総会が開幕し、25日の初日、トランプ米大統領が就任2回目の一般討論演説を行った。当方は同日、米CNNでトランプ氏の演説に耳を傾けた。以下、当方の感想だ。
トランプ氏は昨年、“アメリカ・ファースト”を宣言し、世界を驚かせたが、2回目の今回は過去2年余りのトランプ政権下の実績を挙げ、「2年余りでこのような実績を挙げた歴代政権はなかった」と自賛し、総会会場に集まった世界の首脳陣たちから笑いがもれた時、「(君たちの反応は)予想していなかったが、実際、その通りだよ」と軽くかわす余裕を見せた。
トランプ氏は総会会場に到着が遅れたため、国連側は急きょ演説順序を変更せざるを得なかったが、それ以外は大きな問題はなく、トランプ氏の就任2年目の国連演説はホスト国代表としては及第点が取れるものだった。
トランプ氏の演説内容は興味深かった。論理的に矛盾する点も見られたが、それ以上に考えさせる内容があった。昨年のアメリカ・ファーストは大きな脚光を浴びたが、今年は「主権の尊重」を強調し、「思想となったグロバリゼーション(国際化)」には拒絶の姿勢を鮮明にした。
冷戦時代、欧米諸国は民主主義と自由を高く掲げ、その重要性を強調した。一方、旧ソ連・東欧共産政権は欧米の人権蹂躙批判に対し「主権」「内政干渉」という概念を持ち出して反論してきた経緯がある。
ところで、ポスト冷戦時代の今日、米国大統領が「主権の重要性」を逆に強調したわけだ。時代が変わった、といった感傷的な問題ではなく、トランプ氏の「アメリカ・ファースト」が2年目に入り「反グローバル化」「主権重視」という新しい次元に向かってきたというべきかもしれない。
トランプ氏は演説で北朝鮮との非核化交渉の進展を評価し、核・ミサイル関連施設の破壊を例に挙げ、「金正恩労働党委員長の勇気ある決定に感謝したい」と述べ、非核化の実現に期待を表明したが、北朝鮮の人権問題には全く言及しなかった。北の人権問題が内政問題であり、主権への干渉になる、というばかりにだ。
その一方、トランプ氏は演説の中で2回、人権問題に言及し、批判している。ベネズエラとイランの2国だ。トランプ氏は、「ベネズエラは世界有数の原油生産国であり、豊かな国だったが、今日、多数の国民が飢えの恐れから国外に難民となって流出している」と指摘、ニコラス・マドゥロ現政権の失政を厳しく批判した。イランに対しても、「イラン指導者は国の富を奪い、贅沢な生活をする一方、国民を弾圧している」と批判した。
トランプ氏にとって対ベネズエラ、対イラン批判は内政干渉に該当しないわけだ。前者は米国の難民対策に関わる問題であり、後者は核問題に絡んだ中東・国際社会の安全問題というわけだ。トランプ氏の「主権重視」は第1に米国に対してであり、他国に対しては国際安保問題であり、難民対策といった具合に、その時々の情勢によって異なってくる。
トランプ氏は過去、パリに本部を置く国連教育科学文化機関(ユネスコ)から離脱したのを皮切りに、昨年8月4日、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」から正式に離脱を通知。今年に入り5月8日、イラン核合意の離脱を表明し、6月19日にジュネーブの国連人権理事会からも離脱した。トランプ氏にはそれぞれの理由はあるのだろう。トランプ氏は演説で「米国の援助は今後、友人だけに限定する。これまで多額の援助を受けながら、米国に感謝する国は少なかった」と述べている(「米国の“国連離れ”はやはり危険だ」2018年7月31日参考)。
トランプ米政権は今年1月、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への拠出金の大幅凍結を明らかにした。米国主導の中東和平交渉にパレスチナ自治政府のアッバス議長が拒否していることに対する報復の意味合いがある、といった具合だ。ちなみに、トランプ氏は演説の中で地域の安保問題に言及し、米国に依存してきた国防負担の見直しを要求している。日本にも関わる問題だ。
トランプ氏は「米国第一」を軸に、世界を「友邦国」と「そうではない国」に分け、前者には「連帯」と「責任の分担」を求める一方、後者には「制裁」と「圧力」を行使している。
当方は「米国の「強さ」は誰の為か」(2018年6月19日参考)のコラムの中で書いたが、世界は外交分野でも経済でも共生共栄の道を模索しなければ繁栄できない時代圏にきている。トランプ氏は国連演説の中で「米国は本当に強い」と述べたが、一人勝ちはもはやできない。世界最強国の米国が自国に与えられた恵みを他国と共有する時にのみ、米国と世界はウインウインの関係を築くことができるのではないか。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年9月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。