今回の参議院議員選挙では、「NHKから国民を守る党(以下「N国」)」が議席を獲得し、「安楽死制度を考える会(以下「安楽死会」)」が、約27万票をとり健闘したものの議席をとることなく敗れました。
この二つの「ワンイシュー政党」の課題設定は、票獲得という側面でいえば、私としては「五分五分」だったと感じています。選挙人の絶対数も投票率も高齢者が多い我が国では、安楽死問題は非常に社会的関心が高い課題なので、その意味でいえば戦い方によっては「N国」以上に票を伸ばした可能性すらあると考えています。
では、二つの政党の差はどこにあるかと言えば
- 選挙前の地道な政治活動の差。特に、現在の政治活動の主戦場である、ネット戦略の有無。
- 党首のカリスマ性。
ではないでしょうか。
例えば、ヒカキン氏が「安楽死会」の党首だったらどうでしょう?
彼ならば、今から「いかに安楽死制度は必要か」をネットで訴え続け、次回の衆議院議員選挙で当選するでしょう。うまくいけば、数名の党員も当選できるはずです。
ワンイシュー政党の台頭は必然なのか
年々下がる投票率を見るにつけ、国民の政治への興味関心は下落傾向であることは間違いありません。
他方、今後良くも悪くも、カリスマ性のある党首に率いられた「ワンイシュー政党」の台頭が加速していくと考えています。その流れの中で、これまで選挙に参加してこなかった人たちの政治への関心も喚起されるのではないか、とすら思います。
その理由は簡単で、政治的オピニオンの主戦場であるインターネットは、個人がメディアとして活躍できる場であるからです。
テレビ、新聞、雑誌といった既存メディアは、編集方針から外れた意見は「扱わない」ことで抹殺することができました。しかし、ネットでは個人がメディアとなるため、めいっぱい自分の主張を展開することができます。
やみくもに騒ぐだけの主張は淘汰され、カリスマ性と説得力のある論考や動画がタイムリーに、大量に消費されつづける。ネットで話題となった情報は、既存メディアでも扱わないわけにはいかず、結果高齢者にも届くことになる。もう一つ言えば、今後確実にインターネットに親和性をもつ高齢者が増えていく、という社会的背景も見逃せません。
他方、ネットでは「あれもこれも」という雑多な主張は、理解させるのに時間がかかるため不向きです。そのため、「キリで穴をあけるような」ワンイシューに特化した情報が尊ばれます。そこに、「政治が何もしてくれない」という国民の怒りをミックスすれば、あとはもう簡単です。
たとえば、こんなのはどうでしょう(下の事例はあくまで事例であって、私の意見ではありません。念のため。)
詐欺の量刑を重くする党
- 詐欺などの経済犯は、量刑が重ければ減少します。たとえば、10万円以上の詐欺で懲役20年、100万円以上で死刑とすれば、「電話de詐欺」はたちどころになくなるのです。ローメーカーである国会議員として、詐欺の量刑を重くします!
教育完全無償化党
- 少子化が進む日本において、教育費の負担は確実に「子どもを産み育てる」ことの足かせになっています。また、教育は国の基本であるにも関わらず、先進国でこれだけ高い教育費がかかるのは日本だけです。若い世代の負担を軽減し、次の世代を担う子どもたちを健やかに育てるために、教育費の完全無償化を目指します!
規制改革党
- タクシー業界のロビーにより普及しないUber。医療業界のロビーにより万年医者不足。薬品業界のロビーによりコンビニで目薬も買えない。こうしてジリ貧になっていく日本の状況を、徹底した規制改革により打破します!
すべての国民に賛同を得られなくても、一人のカリスマ党首を議員にさせる程度の人が熱狂的に「そうだよね。そこ、今の政治は何もしてないよね」と思えば、ワンイシュー政党はひとまず成立します。
ワンイシュー政党が合従連衡したとき
先日、N国の立花党首が、「NHKのスクランブル化をすすめてもらえれば、憲法改正に賛成の立場にまわる」という趣旨の発言をしているのを聞いてはっとしました。
ワンイシュー政党は、こだわりがワンイシューであるがゆえに、他のことは「どうでもいい」のです。
その意味では、複数の「ワンイシュー政党」がそれぞれの主張を実現するためにまとまったとき、強い政治集団ができあがることになります。
おそらく、今回の選挙で危機感をもった政治家たちは、「ワンイシュー政党」に不利になるような規制を考え始めていることと思います。
一方、「超高齢化社会」の到来とともに加速していく格差社会の中で、「ワンイシュー政党」は国民の怨嗟の受け皿になる可能性があります。
その出現に規制をかけようとする既存の政治家たちも、これまでのような「お上が言うとおりにしないさい」という手法をとると、インターネット上で可視化され、逆手にとられる可能性もあります。
ワンイシュー政党については、一過性の政治的流行かもしれず、その意味では本論考は杞憂なのかもしれません。とはいえ、いずれにしても今回の参議院議員選挙が内包していた奇妙な特徴は、先の私の論考のとおり、政治への不満が暴走する社会の予兆であった気がしてならないのです。
高橋 富人
佐倉市議会議員。佐倉市生まれ、佐倉市育ち。國學院大學法学部卒。リクルート「じゃらん事業部」にて広告業務に携わり、後に経済産業省の外郭団体である独立行政法人情報処理推進機構(IPA)で広報を担当。2018年9月末、退職。
出版を主業種とする任意団体「欅通信舎」代表。著書に「地方議会議員の選び方」などがある。