官邸で結婚発表した進次郎氏に失望

中村 仁

ワイドショー化する政治

小泉進次郎議員とタレント・滝川クリステルさんの結婚は、ワイドショーや芸能ネタとしては使える話です。なかなか結婚しない人気政治家、美人で年上の滝川さんとの組み合わせは、意外性がありました。私はそんなことより、別次元の意外性に関心があり、政治家としての進次郎氏に失望しました。

官邸での結婚発表会見(NHKニュースより:編集部)

進次郎氏は将来の有望株とみる人がいたとしても、まだ政務官、自民党農林部会長、党筆頭副幹事長までの経験しかなく、閣僚にもなっていません。首相、閣僚であっても、私事である自分の結婚を官邸で第一報を公表することはないでしょうし、なかったでしょう。しかも二人がそろってとは前代未聞です。

私事に対する注目度、関心度がいかに高くとも、官邸という政治の場で発表する次元の話と私事の公表とは、厳然と区別すべきです。記者会見でなく、ぶら下がり(記者が囲んでの立ち話)であっても、狙いは官邸の場を使った私事に関する発表であり、その政治利用でしょう。

さらに菅官房長官に報告し、その長官が「安倍首相もあいているよ」と水を向け、首相に報告をした。本来、首相にも官房長官にも、官邸に出向き報告する必要のない私的な話です。恐らく官邸側が人気政治家と人気タレントの結婚は話題性が十分とみて、進次郎氏にもちかけた。進次郎氏は「いや、ホテルどこかで発表します」と、断る程度の政治判断能力は持っているべきでした。

鋭い質問を飛ばせない記者

ぶら下がり会見とはいえ、記者たちはその辺りの経緯について、突っ込んで聞くべきでした。どうでもいいような話であっても、官邸と進次郎氏の政治的なセンスを見定めるいい機会あったことは間違いありません。テレビ記者は自局のワイドショーのことが気になったでしょうから、せめて新聞記者が鋭い質問を発すべきでした。

官邸は進次郎氏、滝川さんの人気度が高いから、このような場面を作った。進次郎氏は人気先行で、まだ政治的実績が乏しい。財政金融も産業政策も外交も経験がない。人気が政治家としての能力を高めていくことにはつながりません。そこに気づいているなら、芸能人のやるような記者とのやり取りは控えて欲しかったのです。

官邸で結婚発表など他国はしない

私の周辺の知人、友人たちでは、進次郎氏に失望したという声が大きい。「この日、一番、腹が立ったニュースだった。小泉ファンを引退します」「こんなこと首相官邸で行われる国は日本だけでしょう。まして大統領、首相でもないのに」(フランス在住の日本人)、「なんで官邸やねん」(書道家)、「進次郎、お前は芸能人かと、叫びたくなった。芸能人と変わりはないぞ」(医師)。

日産の元会長のゴーンは、資金の私的流用などで特別背任罪、有価証券報告書の虚偽記載で逮捕され、公判を待つ身です。再婚に際し、パリのベルサイユ宮殿で祝宴をあげました。私費でやるべき式の費用負担についても、疑惑がもたれています。つまらいことまで思いださせてくれました。

進次郎氏が選んだ相手はタレントだった。安倍首相は有名企業の創業家の娘、麻生副総理は元首相の娘が妻です。将来のこと考え、カネ持ちの経営者、政界有力者から配偶者を得るのではなく、テレビで有名になった人気タレントを妻にする。この点については、時代の変化かもしれません。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2019年8月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。