倫理より生活重視が社会の空気
菅内閣に対する支持率が予想を上回る高さに達し、世論調査では74%(日経、読売新聞)を記録しました。朝日は65%、毎日64%と、どの調査でも高く、「なぜだろう」と、驚きの声も聞かれます。
清濁いろいろだった安倍長期政権の舞台裏を仕切ってきたのが、菅官房長官で、安倍氏とは一心同体でした。メディアでは、安倍批判が噴出していたのに、その影響をほとんど受けていません。
世論は風みたいなもので、目先が変われば、世論も変わる。ネット社会化が進み、一段と流れをつかむことが難しくなっています。世論に影響を与えることで存在価値があった新聞力は影が薄くなりました。
世論は、どう解釈していいか分からない反応を示すことが多くなりました。たとえば、「菅支持74%(朝日は64%)」の高率ですから、長く首相を務めてほしいと願っているのかというと、そうではない。
「どのくらいの期間、首相を続けてほしいですか」(読売)の問いに、「来年9月の自民党の総裁任期まで」が32%で1位、「2年」が16%、「3年」が16%で、合わせて64%が短期政権しか期待していない。菅支持率は高いのに、「政権は短期でいい」は、解釈に苦しみます。
それにしても「安倍政治の焼き直しはご免。総括なき継承は許されぬ」(朝日の社説)、「時代認識と国家観が重要だ」(読売)、「次期政権の軸を示す政策論議を深めよ」(日経)と厳しい論調が目立ちました。
総括も国家観も政策論議も欠いているのに、菅氏が高い支持率は得て、新聞各社は「これが大衆の声なのか。ネット社会では新聞力は地に落ちてしまった」と、落胆しているに違いありません。
「モリカケ」「サクラ見」と際どい問題を起こした安倍政権下で、黒川・東京高検長の定年延長にも風当たり強かった。検察庁法の議論もせずに突然、法解釈を変更しました。超法規的な措置は激しい批判を浴びました。
新聞記者との賭けマージャンというスキャンダルが発覚し、黒川氏は退任せざるを得なくなりました。菅官房長官(当時)は黒川氏と緊密な関係にあり、政権を巡るごたごたが検察絡みの事件に発展しないよう、火の粉を消す役回りを演じてきたともいわれてきました。
世論調査では「安倍路線の継承は評価する」が62%で、不祥事のことは気にかけていない。政権の致命傷になりかねない数々の事件は、菅新政権の誕生に影響を与えていない。
その理由はまず、政治倫理、社会倫理を厳しく問う空気が希薄になってきたことです。「低成長だし、給料は上がらないし、コロナ不況対策、雇用維持、財政出動による生活安定を優先してくれ」なのでしょう。
大統領の弾劾にまで発展したトランプ氏の法の逸脱行為は米大統領史上、前例のない振る舞いです。野党の指導者の命を奪うプーチン露大統領の鉄面皮、香港から自由をはく奪する習・共産党独裁政権と、倫理の世界標準のレベルは地に落ちています。倫理は後回しでいいの時代です。
日本社会は「メディアが騒ぐほど日本は悪くない」と、考えていると思うのです。国会審議における野党も非力で、「騒いだところでどうにもならない」と、国民はあきらめているのです。
世論調査で「麻生副総理の再任」に53%が「評価しない」とし、「新内閣や党役員人事」は「派閥に配慮して決めた」が61%にも達しました。「解散・総選挙は任期満了までやらない」が59%の高率で、社会はみるべきところはきちんと見ている。これは救いです。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2020年9月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。