コロナ禍の選挙で極右「自由党」大敗北

ウィーン市議会の投開票が11日、実施されたが、前回2015年で第2党に大飛躍した極右政党「自由党」が前回の得票率30.8%から7.7%に、マイナス23.1%とという歴史的な敗北を喫し、第5党に急落した。選挙の度に躍進してきた自由党に何があったのだろうか。

先ず、暫定結果だが、ウィーン市議会選(定数100)の結果を紹介する。第1党は大方の予想通り、ルドヴィク市長が率いる与党社会民主党が42.25%、前回比で2.6%増で楽々と第一党を堅持、それを追って、クルツ政権下で財務相を務めるブリューメル氏の中道右派「国民党」が前回のほぼ倍の得票率18.8%で躍進、第3党は市議会で社民党と連立を組む「緑の党」が14.0%、リベラル党「ネオス」7.8%、そして自由党が7.7%となっている。

議席数では社民党が過半数に迫る47議席、国民党20議席、「緑の党」15議席、「ネオス」9議席、自由党9議席(マイナス25議席)となる。なお、自由党から追放されたシュトラーヒェ前党首が結成した新党「チーム・シュトラーヒェ」は得票率3.6%で、議席獲得に必要な得票率5%のハードルを越えることが出来ずに、市議会進出はできなかった。投票率は約62.7%で前回の75%より低下した。

投票結果を受け、次期政権は社民党と「緑の党」の再連立の可能性が最も高いと受け取られている。ただし、ルドヴィク市長は自由党以外の全ての政党と連立の可能性が考えられると述べている。

大敗北を喫したネップ自由党党首(ウィーン市自由党公式サイトから)

今回のコラムのテーマ「極右自由党がなぜ壊滅したか」を考えたい。自由党のウィーン党首ドミニク・ネップ氏は投票結果が判明した直後の記者会見で、選挙の大敗北の理由について、「前党首シュトラーヒェ氏のイビザ騒動と同氏の党経費の個人的流用問題が党の信頼を落としたことが致命的だった」と答えている。

イビザ問題とは、オーストリアでは2017年の総選挙の結果を受け、国民党と極右党自由党の2党から成る連立政権が発足したが、選挙前の夏、自由党のシュトラーヒェ前党首がスペインの避暑地イビザ島で自称・ロシアの女性富豪と会見、党献金を要求、その引き換えに公共事業の受注を斡旋し、オーストリア最大日刊紙の買収などを持ち掛けていたことが昨年5月、ドイツのメディアでリークされて、オーストリアの政界が大揺れとなった事件だ。その結果、シュトラーヒェ党首は責任を取って副首相と党首のポストを辞任した経緯がある。

イビザ事件が連日メディアで報道されている中、実施された連邦議会選(2019年9月29日)では自由党は前回(2017年10月)比で得票率約10%と大幅に失い、今回のウィ―ン市議会選では得票率を20%以上失ったわけだ。壊滅状態といっても過言ではないだろう。

自由党はシュトラーヒェ党首時代の14年間、不法難民反対、外国人排斥、オーストリア・ファーストを標榜して選挙の度に飛躍してきた。特に2015年、欧州に100万人以上の難民が中東・北アフリカから殺到したことを受け、欧州全土で難民受け入れ反対、外国人排斥が高まり、欧州各国で極右政党が躍進した時だった。

自由党は国民党と連立政権入りを果たすなど、文字通り、飛び鳥も落とす勢いだったが、党首のイビザ不祥事がメディアに報じられると、自由党への風向きが180度かわり、自由党叩きが始まったわけだ。

ネップ党首は選挙戦終盤、ギリシャのモリア難民キャンプの火災と保護者のいない子供の難民受け入れ問題が出てきた時、難民受け入れ反対、外国人排斥を再び持ち出して有権者に訴えたが、一度離れた有権者の心を掴むことが出来なかった。投票結果の分析によると、自由党支持者は今回、投票を棄権した数が多く、一部は「緑の党」、「ネオス」に票が流れたという。

今回の市議会選は新型コロナウイルスが再び猛威を振るいだし、ウィーン市でも新規感染者が日に1000人を超えるといった時に実施されただけに、投票場ではマスク着用、ディタンスの維持だけではなく、投票用紙に記入するために各自がボールペンを持参するように通達された。コロナ感染を恐れた高齢者には投票を棄権するケースも増えた。

ちなみに、有権者(約136万人)の約40%(38万2214人)は今回は郵便で投票している。そのため、投票の最終結果は13日以後判明する予定だ。

自由党はコロナ禍ではクルツ政権の規制措置に対し、「国民を過度に不安に陥れている」と批判してきた。党関係者にはマスクの着用を拒否する姿も見られた。ただし、新型コロナの感染拡大を受け、新型コロナ感染への規制措置に批判的な自由党は多くの有権者には危険と受け取られてきた。

選挙結果を受け、ウィーン市自由党ではネップ党首の責任を追及する声が既に聞かれる。党員の中には、ホーファー連邦党首では選挙に勝てないとして、党首の交代を求める声すら出ている。一部には、14年間、自由党を躍進させたシュトラーヒェ前党首と和解して、自由党はもう一度結束すべきだという声が聞かれる。オーストリア自由党の壊滅的な選挙結果は欧州の他の極右政党にも少なからず影響を与えることが考えられる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年10月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。