森会長辞任:あまりにも敬意なき魔女狩り的バッシング

とうとう森会長が辞任に至った。これほどまでにバッシングが広がれば、耐えきれなくなったのも致し方ない。問題の発言をどう思うかと問われれば、時代錯誤だ、女性軽視だと返答するしかない。記者会見の様子も、火に油を注いだ感がある。スポンサーも、このバッシングの中で森会長を擁護すると、不買運動につながりかねないので批判するしかない。

森喜朗氏 NHKより

しかし、私は今の風潮は行き過ぎだと思う。私も発言内容を容認はできないが、がんと闘いつつ、腎透析を受けながら、会長としての日本のために責務を果たされてきたこれまでの苦労と責任を、まるで無に帰するようなメディアの論調を聞いていると日本人として悲しくなってくる。これほどまでに敬意なき、個人叩きをする方が日本という国を貶めるような気がする。トランプ前大統領でも、何があっても「功罪」の「功」の部分は評価されていた。

功績のあった女性アスリートを後継にすべしという声もある。しかし、それでは、表面的な飾りにしかならず、オリンピック・パラリンピックという大事業を成し遂げることの困難さを理解していないと言わざるを得ない。今後も多くの調整が必要だし、コロナ感染が収束しない中で、開催の可否、開催した場合の感染対策など、とてつもなく大きな責任を担わなければならない。しかも、開催する場合、あと5か月半しかない。これまでの経緯を知らない人が会長の務めを果たせるわけがない。私も70歳という年齢が目前に迫っているので、世の中が変わり、「・・・・すべし」とは理屈の上でわかっていても、やはり、心では受け入れられない部分が残ることもある。お互いを少しでも理解し、できる限り尊重し、最後は認め合う気持ちに欠けた今回の騒動には違和感が残る。

森会長は、受け狙いの発言がこの事態に至ってしまった。組織委員会が悪い、メディア対応が悪いなどと言っても、それよりも重要なことが、この国にはたくさんある。オリンピック・パラリンピックをどうするのか、そのためにコロナ対策をどうするのか、経済対策をどうするのか、個人の失言よりももっともっと国の将来を左右するような課題が横たわっている。そして、失言をしたのは事実だが、ここまでの魔女狩り的誹謗中傷が許されるほど、われわれは清く正しく生きてきたのだろうか、と疑問に思わざるを得ない。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2021年2月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。