東京五輪でゲームBGMを採用したのは大成功である

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

最初の頃、筆者は東京五輪を見るのが辛く感じていた。次から次へとトラブルや対応への批判ばかりが聞こえてきて、「日本は海外からダメな国だと思われてしまうのでは?」と不安ばかりが強くなっていった。懸念を感じつつ、選手入場が始まった。その時、小さい頃から聞き覚えのあるドラクエやファイナルファンタジーのBGMが流れてきたことに仰天した。その瞬間、まるで稲妻に打たれたような衝撃が全身を駆け抜け、年甲斐もなく涙が溢れ、頬を伝うのを止めることが出来なかった。これほど分かりやすく、そして間違いなく「日本らしさ」を世界に伝える手段は他にないだろう。

世界が注目する場でゲームBGMを採用した勇気ある英断と、選曲センスに心から拍手を送りたいと感じる。

ドラクエの音楽で入場するギリシャ選手団 NHKより

ゲームは世界に愛される日本文化

昨今、様々な識者から「日本ビジネスや経済の凋落」の嘆きの論調をよく見る。頼みの綱である我が国の自動車産業すらも、EV化の流れで先行き不安が立ち込めてきたと見る人も出てきた。「産業の米」「日の丸半導体」と言われ、かつては世界のトップをひた走る日本の半導体は厳しい状況に置かれている。ハイスペックが自慢だったガラケー携帯電話は、わずか10年前に登場したスマートフォンに完全に駆逐されてしまった。

だが他の産業に影を落とす中でも、日本のゲームはずっと愛されてきた。昨今は中国や米国のゲームコンテンツも台頭しているが、それでも日本のゲームほど歴史と知名度に強いものは存在しない。マリオは生誕36年の歴史があり、ドラクエは35年、FFは34年である。これほどの長きに渡り、テクノロジーの進化とゲーム市場の成長とともにずっとプレーされてきた多数のゲームコンテンツを有するのは日本だけである。

こうしたビッグタイトルと、ゲームミュージックは共に歴史を紡いできた。東京五輪で使われた「ファイナルファンタジー・メインテーマ」は第1作めのオープニングテーマから使われており、シリーズを通して採用されている。ドラゴンクエスト・序曲は、ゲームをプレーしたことがない人でも聞き覚えのあるほど、多くの人の耳に残っている。アメリカに「映画」という文化があるというなら、日本には「ゲーム」という誇るべき文化があると言えるだろう。ゲームミュージック名曲の中には、学校の音楽の教科書に取り上げられるものもあるほどだ(FF10のザナルカンドにて など)

グローバル文化に迎合することなく、日本のガラパゴス環境で育まれたありのままの文化を、世界は受け入れ、愛してきた。紛れもなく日本のゲームは我が国の強力なコンテンツであり、東京五輪で世界の人たちを日本らしく迎え入れるBGMとしては、最高の選曲である。

過去のオリンピックにおいて、そしてこれからも選手入場曲がこれほど話題になる事は二度とないはずだ。そう思えば少なくともこの点においていえば、大きな成功に感じるのだ。

海外からの反応も上々

海外のメディアは東京五輪の選手入場BGMについて、ポジティブに報道した。ワシントン・ポスト紙は「The music for the Tokyo Olympics Opening Ceremonies? It comes from video games.」という記事を、ニューヨーク・タイムズ紙は「The music for the athletes was a parade of video game hits.」という記事でこの様子を取り上げた。

SNS上で「olympic final fantasy」「olympic music」と検索すると、海外からの反響を確認することができる。ざっと見たところ否定的な意見は殆ど見られず、概ね肯定的なものばかりだ。また、YouTube上で採用されたゲームミュージック動画に対して、日本語だけでなく英語やその他の外国語でも「オリンピックでの採用は素晴らしい」という反応で溢れかえっている。

まだまだ始まったばかりのオリンピック、これからも批判やトラブルはあるかもしれない。だが、五輪開始前にゲームミュージックが懸念を抱く人々の胸中を明るく照らしてくれたのは間違いないだろう。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。