中国が米国報復制裁で「論語読みの論語知らず」を露呈

中国は23日、前トランプ政権のウィルバー・ロス商務長官ら米国人7人への制裁を公表した。6月に施行した「反外国制裁法」(筆者は拙稿で同法を「オウム返し話法」の類と評した)に基づく初の報復制裁では、ロスの外に次の6名が対象となった。

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バーソロミュー米中経済安保委員会委員長、中国問題に関する連邦議会行政府委員会のスタイバーズ元委員、全米民主国際研究所のキム・ドユン、キング共和党国際研究所副所長、ヒューマン・ライツ・ウォッチのリチャードソン中国局長、そして香港民主主義評議会の幹部1名。

制裁内容は、対象主体に対する「ビザの発給拒否、入国拒否、ビザの取り消しもしくは国外追放」やその「中国内の動産、不動産およびその他各種の財産の差し押さえ、押収、凍結」などの措置とされる。

ホワイトハウスの反応を先に述べれば、サキ報道官は23日のVOAの取材に、「北京の行動は、民間人や企業、市民組織に対する、中国の投資環境の悪化と政治的リスクの高まりの政治的シグナルだ」とし、「我々は挫けないし、関連する米当局の制裁実施に全力で取り組む」と述べた。

VOAは香港民主主義評議会幹部の「中国共産党のような権威主義体制によって標的にされ、制裁を受けることは名誉のバッジだ」とのコメントを載せた。つまりは実効がないということか。また同紙は、制裁がシャーマン米国務副長官の中国訪問に合わせて出されてことを示唆している。

他方、中国外務省は制裁発表に先立つ17日、今回の「報復制裁」の誘因となった、米国政府が16日に発行した香港での事業に対する米国企業へのリスク警告と7人の在香港の北京連絡事務所員に対する制裁について、「紙くず(Wastepaper)」との常套句で応じていた(環球時報の18日記事)。

同記事は、おそらく北京の代弁者であろう香港の法律家グループ「香港法務交流財団」が、16日の米国の措置を「国連憲章第2条(7)」並びに「国連決議2625号」に違反する内政干渉だとして非難する書簡を、香港の米国総領事に提出したことを報じている。

具体的には、「国連憲章第2条(7)」の原則は、いかなる国または国のグループも、いかなる理由でも直接的または間接的に、他国の内政や外交に介入する権利を持たないという、任意の国の国内管轄内の問題への不干渉の義務に関する「国連決議2625号」によって強化されている、と述べる。

ならば、「国連憲章第2条(7)」と「国連決議2625号」の条文に当たらない訳にはいかない。

国連憲章第2条

この機構及びその加盟国は、第1条に掲げる目的を達成するに当っては、次の原則に従って行動しなければならない。

7. この憲章のいかなる規定も、本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではなく、また、その事項をこの憲章に基づく解決に付託することを加盟国に要求するものでもない。但し、この原則は、第7章に基づく強制措置の適用を妨げるものではない。

なるほど、これは香港の法律家グループのいう通りだ。では国連決議2625号はどうだろうか。それは1970年10月に決議された「国際連合憲章に従った国家間の友好関係及び協力についての国際法の原則に関する宣言(友好関係原則宣言)」と呼ばれるものだ。

そこには「一、以下の原則を厳粛に宣言する」として、原則が6つ述べてある。

  • 国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならないという原則
  • 国は、国際紛争を、国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように平和的手段によって解決しなければならないという原則
  • 憲章に従って、いずれの国の国内管轄権内にある事項にも干渉しない義務に関する原則
  • 人民の同情及び自決の原則
  • 国の主権平等の原則
  • 国は、憲章に従って負っている義務を誠実に履行しなければならないという原則

中国の代弁者は3番目の「憲章に従って、いずれの国の国内管轄権内にある事項にも干渉しない義務に関する原則」についてのみ「2625号決議」を引いているようだ。が、この我田引水は、国連憲章の大前提および3つの今日的問題、すなわち香港、ウイグルそして台湾の事態に引っ掛かる。

先ず「大前提」から述べれば、国連憲章の「序」には、「(憲章は)国際機構に関する連合国会議の最終日の1945年6月26日にサン・フランシスコ市において調印され、1945年10月24日に発効した。国際司法裁判所(ICJ)規程は国連憲章と不可分の一体をなす」とある。

そのICJ規程の第4条には、「裁判所の裁判官は、常設仲裁裁判所(PCA)の国別裁判官団によって指名される者の名簿の中から、以下の規定に従って総会及び安全保障理事会が選挙する」とある。つまり、PCAあってこそのICJであり、そのJCJは「国連憲章」と一体不可分という訳だ。

中国外務省が今回も使った「紙くず」は、PCAが16年7月に、南シナ海での共産中国の暴挙に対して下した判決にも中国が用い、その敗訴の5周年の日にも趙立堅戦狼報道官が繰り返した語だ。つまり中国は今回、「紙くず」判決を出したPCAあればこそのJCLと不可分の「国連憲章」を持ち出した。

さて、スパイ機関との疑いすらある「孔子学院」を世界中に設けながら、中国には儒教に対する警戒心があるという。儒家といえば孔子、孔子といえば論語となるが、「論語読みの論語知らず」とは「書物などに書いてあることを知ってはいても、それを実践できない者」を嘲笑する語だ。

なるほど中国には極めて立派な憲法がある。が、その憲法の上位に中国共産党がある国柄ゆえに、それが絵に描いた餅と化していることを国際社会の多くが知っている。今回持ち出した「国連憲章」の中国の理解にしても、縷述の通り上っ面に過ぎず、次のような上げ足を取られよう。

先ず、香港への「国安法」適用は、84年9月の香港返還に係る英中合意の「50年間は政策,方針を変えられない」との国際的な約束に明確に違反する。ウイグルへのジェノサイドも、48年12月の国連第3回総会決議260A(III)で採択され、51年1月に発効した「ジェノサイド条約」に反する。

さらに、「台湾が独立の動きを示せば、最後の選択として非平和的手段の行使を行わなければならない」とする「反国家分裂法」は、今回のことで中国が持ち出した「国連決議2625号」が宣言している一つ目の原則に明確に反している。

これらは、中国が国際法の本質や精神の何たるかを蔑ろにする「論語読みの論語知らず」だからという外なかろう。とはいえ、これら米中の相互制裁がまだ、米国による香港ドルの米ドルへの自由兌換禁止北京五輪ボイコットといった致命傷を与えるに至らない、「ごっこ」であることを忘れてはなるまい。