英米法の文化圏では、投資運用業の根底に、フィデューシャリー・デューティーがある。フィデューシャリーとは、他人からの特別な信頼を得て業務を遂行するもので、投資運用業に従事するものは、その代表なのである。投資運用業において、フィデューシャリー・デューティーとは、その業務に従事する個人がフィデューシャリーとして負う義務であって、煎じ詰めれば、専らに顧客の利益のために最善を尽くすことに帰着する。
ここには、自己もしくは第三者の利益を一切顧みないという最高度の忠実義務と、職業的専門家として最善を尽くすという最高度の注意義務が内包されるわけだが、運用者が自分自身の財産を運用することを考えてみれば、専らに自己の利益のために、他人の利益を顧みずに、最善を尽くすに決まっているのだから、他人の資産を自己の資産と全く同じように運用すれば、フィデューシャリー・デューティーが貫徹することは明らかである。
資産運用の場合は、結果を保証し得ない以上、専門家として専らに顧客の利益のために最善を尽くすことは、自己の信じる最善を尽くすこと以上になり得ないわけで、その社会的評価は専らに結果に基づいてなされるにしても、自己の信念を貫いた以上、いかなる評価をも受け入れるほかないのである。そこに、専門家としての厳しい生き方がある。
その厳しさは、自己の財産も自己の信念に賭けることをもって、一段と明確になる。逆に、それだけの厳しさをもって臨まない限り、真のフィデューシャリー・デューティーの履行はなされ得ないのである。
金融庁は、2017年3月、「顧客本位の業務運営に関する原則」を定めたとき、そこにフィデューシャリー・デューティーを取り込んでいる。この原則は、金融機関が自己の規範として採択するとき、法令等に準じた強制力をもつのだが、主要な投資運用業者にして、これを採択していないものはない。故に、日本の投資運用業にも、フィデューシャリー・デューティーは適用されているのである。
さて、ならば、投資信託の運用をするものは、そこに自己の財産を投じるべきである。同様に、その投資信託を顧客に売るものも、そこに自己の財産を投じるべきである。これで、フィデューシャリー・デューティーは貫徹されるであろう。
森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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