静寂を好む人は田舎に移住してはいけない

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

田舎に住んでそれなりの年月が経過した。とはいえ人生の9割の時間は都会で過ごしたので、筆者のパーソナリティを構成する要素の大部分は依然都会人としてのものである。

今の暮らしは気に入っている。ポジティブに感じる要素の大部分は、都会生活では決して得られなかったものばかりだ。しかしその一方で、都会人としての感覚からすると「これは都会の方が良かった」と感じる要素が1つだけある。「騒音がうるさい」のだ。

Dima Berlin/iStock

誤解なきよう言っておくと、騒音がうるさいのは自分が住んでいる地域に限定されず、SNSなどの反応を見る限り地の田舎町にも共通するようである。「東京の方がうるさいのでは?」と反論があるかもしれない。だが、東京では静寂という環境をお金で買うことができる。しかし、ここではそれができない。

今回の騒音事情は地方の中でも地域差がかなり大きい。地方の中でも都心部ではこうはならないだろう。筆者がいっているのは、地方の中でも田舎の地域に限定される。記事タイトルを「地方」ではなく「田舎」としているのはこのためだ。十把一絡げに「地方は全部こうだ」などと、稚拙な全体論を唱えているわけではないことをあらかじめお断りしておく。

頻繁な防災無線のお知らせ

筆者が東京、大阪に住んでいた頃、「防災無線」がなるのは、夕方5時の夕焼け小焼けのメロディーの時だけだと思っていた。そのため、防災無線が何の役割を果たすのか?それを理解したのは、恥ずかしながら地方に住んでからのことである(それまでは5時のお知らせと、大災害の時だけだと思っていた)。

今の家に移住してからは、この防災無線が都会とは比べ物にならない頻度で使われることを理解した。「高齢者が迷子になった」「野生のサルが出たから餌をやるな」「子供の帰宅のタイミングは車の運転に注意を」「火の用心」こうしたお知らせがかなりの頻度で繰り返し鳴らされる。タイミングが悪いと、寝かしつけた子供が目を覚ましてしまったり、YouTube動画の撮影を中断することになり、実害を感じることがある。

「防災無線に反発はないのか?」と思い、反応を調べてみると市に苦情が寄せられているケースがあった。自分だけではなかったようである。しかし、驚くのはここからだ。防災無線に苦情が入ったことで、放送の回数を減らしたことに対しても「仕事をサボるな」「放送が減ったことで困る人がでたらどうする!?」という苦情も出ていたようだった。繰り返し鳴らされる不要不急のお知らせをうるさいと思う気持ちはよく分かるが、逆に「放送を減らすな」という苦情の存在には驚きを隠せなかった。

防災無線を日常生活の情報源にする人がいる割合は、田舎は都会より高いだろう。郷に入っては郷に従えの精神で、市に苦情を出すつもりはない。だが、防音マンションに住んでいた経験者が「子育て環境の良い地方へ」という気持ちで移住してくると、面食らう要素の一つだろうと考える。

早朝の草刈り機

田舎は当然だが、自然が多い。たまに旅行に来る人にとっては、澄んだ空気を深呼吸したくなるだろう。しかし、実際に住んでみるとメンテナンスの必要性を理解することになる。自然を放置すると、草木が道路に進出して交通の妨げになるからだ。

stoickt/iStock

そしてメンテナンスは多くの場合、草刈り機で人力処理を行うことになる。日中ではなく早朝に行われることが筆者の地域では多い傾向だ。夏場は朝5時くらいに草刈り機の駆動音が長時間サラウンドで響き渡る。処理をやっている人は必要性からやっているので、感謝をしなければいけないが、これがかなりのノイズに感じられる。

草刈り機の駆動の必要性を排除する事ができない以上、地方特有の騒音問題にカテゴライズするべきだろう。

野生動物の鳴き声

筆者は山に住んでいるため、家のすぐ裏は竹やぶでムササビ、サル、ネコ、鳥などいろいろな野生動物が蠢いている。部屋の中からバードウォッチングができる環境は、都会に住んでいるときには贅沢に感じただろうが、長く住んでいると鳴き声に悩まされることがある。

正体は不明だが、夜行性動物と思しき遠吠えに安眠を妨害されることが何度かあった。

東京に住んでいる時には様々な物件に住んだが、木造のアパートで生活音が筒抜けの部屋も経験したし、密閉性が高すぎるために、音の反響が出るほど静かに包まれていたRC防音マンションにも住んだ。その経験からも「静寂という環境はお金で買うもの」、という感覚があった。だが、地方の一部の地域はそんな防音性能も貫通してくる地理的な音事情がある。静けさを求めて地方に移住を夢見る人には、面食らうだろう。そこまで踏まえた上で移住先を考慮する必要がある。音は後からどうにもできないため、騒音に敏感な人は慎重さが求められる局面である。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。