オミクロン株の脅威

ブラックフライデー番外編 オミクロン株の脅威!

とうとう一番恐れていたことが起こってしまった。南アフリカを中心に新変異株オミクロンが広がっている。経口薬も期待していたほどの効果はないようだし、その影響で世界的に株安が進行している。

Ca-ssis/iStock

がんでは、新たに変異が起こり、それが他のがん細胞より増殖スピードが速いと、瞬く間に新たな変異をもったがん細胞に置き換わる。薬剤治療中に、薬剤に抵抗性のあるがん細胞(薬剤の攻撃をすり抜ける変異を持ったがん細胞)に一気に置き換わるのも同じような仕組みだ。

ウイルスも感染しやすい、増殖しやすい、免疫をすり抜けやすいなどの特徴を備えると、その変異種が一気に広がってしまう。ウイルスの自滅説など、科学力のない人の戯言だ。一部のがん細胞が自滅しても、全身のがんが自然消滅するはずもない。

抗体だけが感染の抑制に関わっているわけではないが、今回のオミクロン株は多くの遺伝子変異が存在していると報道されている。

ワクチンによって抗体が誘導されると言うが、現実的には体内で作り出されている抗体は1種類ではなく、スパイクタンパクのいろいろな部分に反応する多種類の抗体が生み出されている。歳をとると抗体価が低いのは、抗体を生み出すBリンパ球の種類が減ってくるからだ。

たとえば、若い人は10種類の抗体を作り出すことができるとしても、われわれの世代になると8種類、5種類と減ってくる。Tリンパ球は、これらの抗体産生に影響するが、このTリンパ球を活性化するには、HLA分子にウイルス(タンパク)由来の抗原をくっつけて、「これが敵の目印ですよ」と教える必要がある。

しかも、このHLAは無茶苦茶多様性に富んでいるので、個人差は大きい。民族間の差も著しく大きい。まさに、異なった環境下で生き延びてきた証が、凝縮されている世界がそこにある。

と横道にそれたが、多種類の抗体がワクチンによって生み出されることを図で説明しよう。タンパク質には立体構造(凸凹)があり、図には漫画的に描いたが、いろいろな形(部分)を認識する抗体が作り出される。ウイルスに変異が起こると、アミノ酸が置き換わるので、それによってタンパク質の形が変わってしまう。

今回のオミクロン株は感染力が高いと報告されているが、形が変わると、人の細胞により結合しやすくなることがある。その場合、次々と細胞から細胞へと感染が広がり、そして、人から人へと感染を広げてしまう。しかも、体にある抗体(たとえば、冗談の右端部分が、ハート型に変わると、この部分にくっついていた抗体)は、もはやスパイクタンパクに結合できなくなり、無力化してしまうのだ。

このように変異はタンパク質の形を変えるので、初期のころのコロナウイルスの遺伝子情報を基に設計されたファイザーやモデルナ製のスパイクタンパクmRNAワクチンの効果は一気に減弱してしまう可能性がある。これらのワクチンは、期待以上の抗体誘導能力、感染抑制効果を発揮したが、ワクチンによる抗体量そのものが低下つつあるのが現状だ。

この状況で、日本でのオミクロン株の感染拡大を防ぐ方法は水際対策しかない。繰り返し言ってきたが、「検査と隔離」という大原則の徹底を図るしかないのだ。少人数の感染なら、クラスター対策で対応可能だ。

水際で、できる限り抑え込み、もし、国内に流入すれば、周辺の徹底的な検査と隔離を図り、封じ込める。決して、無症状感染者を見過ごしにしないという、当たり前のことをできる国にして欲しいと願っている(同じメンバーが対策を練っているので難しいだろうが?)。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2021年11月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。