ボルソナロ大統領下のブラジル、アマゾン地帯の森林破壊は2倍に増加

昨年8月、マトグロッソ州シノップ地域の森林伐採地の空撮写真。FLORIAN PLUCHUR (AFP)
エル・パイス紙より

アマゾン地帯の保護に関心がまったくないボルソナロ大統領

アマゾンの森林地帯はブラジル、コロンビア、ペルー、エクアドル、ガイアナ、スリナムを包括する740万平方キロメートルの面積を有する地帯だ。この6 ヶ国の中でブラジルが60%の面積を占める。

また地球の酸素の20%がアマゾンで生み出されている。アマゾンには地球の20%に相当する淡水も埋蔵されている。更に、二酸化炭素を9000億から1兆4000億トンほど蓄積している。地球の生態の存続に非常に重要な役目を果たしている。

ところが、アマゾンの破壊が最近富に目立つようになっている。ブラジル政府そのものがアマゾンの自然保護に関心が薄いことが要因としてある。2018年の大統領選挙の決選投票のキャンペーン中に労働者党の対立候補であったフェルナンド・アダジ元サンパウロ市長が「私のライバルが大統領に選ばれればアマゾン地帯の崩壊の始まりだ」と指摘していた。そのライバルとはジャイル・ボルソナロ現大統領である。

ボルソナロ大統領の頭の中には、アマゾン地帯が地球の生態の存続に重要な役目を果たしているという以上にアマゾン地帯の開発はブラジルの経済発展により重要であるという考えに根付いていることだ。

その具体例として、ボルソナロ氏は先住民の保護地区の存在を否定していることである。人口2億1200万人のブラジルでその0.5%にも満たない先住民に対し、彼らの保護地区がブラジル国土の13%余りを占めている。それは過度の占拠だとボルソナロ氏は考えているのだ。彼らの保護地区には金、マンガン、鉄、銅といった重要資源が埋蔵されている。にもかかわらず保護地区であるために開発できないと彼は否定的な考えでいるのだ。

またボルソナロ氏は、ブラジルが軍事政権から民主政権に移行して以来、この35年間に先住民の為の保護地区を新たに設けたり、生態系の為の自然環境保全地区を設定したりすることをまったく行っていない唯一の大統領でもある。(8月21日付「エル・パイス」から引用)。

ボルソナロ政権下での年間の森林破壊はこれまでの2倍

ボルソナロ氏が大統領に就任した2019年の森林破壊面積は1万851キロメートル、2020年は1万3235平方キロメートルと記録されている。これだけの森林面積の破壊は2008年に1万2911平方キロメートルの破壊があった時以来の数字である。

2009年から2018年までは年平均でおよそ6400平方キロメートルが破壊されている。それと比較してもボルソナロ氏の政権下では年間で2倍の森林破壊となっている。(2020年11月30日付「エル・パイス」から引用)。

森林を破壊する目的は勿論木材の販売を始め、大豆など農作物の生産の拡大や資源開発と牧畜の為の土地を広げることである。その為には必然的に先住民の土地にも侵入するようになっている。

森林保護検査官は半分以上に減少

森林破壊を防止すべき検査官も不足している。2009年には1600人の検査官がいたのが、今では僅か700人しかいないという。ブロクラシーのシステムが適時に機能していないことから新しく検査官を募って指導することができなくなっている。(1月5日付「エル・パイス」から引用)。

それを補填する意味で軍隊を配備して違法な開発を防ごうとしたが、事態が大掛かりになって目立ってしまい逆に効果は出なかった。違法者を取り締まるには目立つことなく密かに捜査を続けて行く必要がある。

違法者への罰金についても以前はそれを徴収することに困難を伴ったが、現在では罰金を通告するシステムがブロクラシーとスタッフの不足でそれを通告することも儘にならなくなっているという。

根本的な問題は、ボルソナロ大統領自身がアマゾン地帯の不法な開発を防止する意欲に欠けているということなのである。

それを如実に示しているのが、過度の森林伐採だと指摘されていること自体がくだらない戯言だとボルソナロ大統領は見なしているのである。大統領は「もし世間で言われているような割合で森林伐採が実際に行われていたのであれば、アマゾン地帯は既に砂漠になっているはずだ」と指摘しているのである。そして「そのようなニュースはブラジルの野党に都合が良いだけで、国の悪いイメージを与えることになり、外国から投資を誘うのに政府の努力を難しくさせてしまう」と述べ、「我々が投資を誘うのに努力している一方で、国の悲観論者は外国でブラジルのことを批判し、アマゾン地帯について偽ったことを伝え、政府がアマゾン地帯を放火していると言いふらしているのだ」と述べて悲観論者を非難した。

またボルソナロ氏は今から25年前に指摘されたニュースを取り上げて、「そこで指摘されているようなペースで森林伐採が実際に行われていたならば、2010年にはアマゾン地帯は砂漠になっているはずだ」と述べて、これまで偽った情報が流されていると彼は批判した。

グラスゴーで開催されたCOP26 で「この地域はもう回復できなくなっており砂漠化してしまう」と報じられた。それに対してボルソナロ氏は「これがいつもの戯言である」「このようなニュースは(破壊されつつあるとしているアマゾンの)ブラジルに反対しているブラジル人によって支援されたもので、投資を遠ざけ経済面での困難さをより誘うことになる」と語った。更に、「違法な森林伐採は確かにある。しかし、他国がブラジルで違法に伐採された木材を購入しないようにすれば問題は解決するはずだ」とも述べた。(11月20日付「ドイチェ・ヴェレ」から引用)。

実際、EUは現在その方向にあり、違法に伐採された地域で開発された食料なども輸入を禁止することを検討している。

統治能力の欠けたボルソナロ大統領

ボルソナロ大統領は自らの否は認めず、常にそれを他人のせいにするのが常だ。更に、コロナ感染においてもそれは風邪をこじらせたようなものだとしてワクチンの導入の必要性を事態が深刻な状態になるまで全く認めなかった。この遅れによって死者が多く出た時も、彼は人はいずれは死ぬものだと言って自らの判断の過ちを認めなった。

このような姿勢のボルソナロ氏を次期大統領のポストを狙うルラ元大統領は、「我々は普通の人間と立ち向かっているのではない。国を統治するのに最低限の能力さえ欠けている精神病者と我々は対峙しているのだ」と英国紙ガーディアンのインタビューに答えたことがあった。(5月25日付「エル・ディアリオ・エス」から引用)。

アマゾンの森林伐採は干ばつを招く

アマゾン地帯の森林伐採による悪影響は雨量の減少にもつながっている。ブラジルで雨が降るのはその多くがアマゾン地帯と関連しており、森林伐採が進むと干ばつを招くようになるということをブラジル国立宇宙研究所(INPE)のルシアナ・ガティ研究員が指摘している。

7月25日付「エル・パイス」から引用)。東と中央西部地域ではこの91年間で最悪の干ばつに見舞われているそうだ。ということで、これまで雨だけで灌漑が十分に施されていたのが、今ではポンプによる灌漑システムを導入せねばならなくなっているという。

来年はブラジルの大統領選挙が控えている。現在の予測ではルラ元大統領が決戦投票でボルソナロ大統領を負かすという予測が有力となっている。その一方でボルソナロ氏もルラ氏も嫌っている有権者が第3勢力として動き始めている。その最初に名乗りを上げたのはルラ元大統領に有罪の判決を下したモロ判事である。