戦後最大の超過死亡
2021年5月以降の半年間にわが国で観察された超過死亡は4万人に達し、東日本大震災のあった2011年を超えて、戦後最大となっている。
これまでも、国立感染症研究所の分析結果に基づいて、超過死亡は新型コロナの流行やそれに伴う医療の逼迫が原因であると各メデイアは報道しているが、この期間におけるわが国の新型コロナによる死者が8,500人であることを考慮すると、4万人(4.7倍)という数字はいかにも多すぎる。
コロナによる超過死亡が観察された米国、英国、イタリアからの報告では、超過死亡数はコロナによる死者の1.1から1.3倍程度である。例えば、2020年のイタリアにおけるコロナによる死者は7万2千人であったが、超過死亡数は8万2千人(1.1倍)であった。
わが国で高齢者に対するコロナワクチンの接種が開始された昨年の4月以降に、超過死亡が生じていることから、超過死亡の原因としてワクチン接種後の死者の増加が囁かれているが、この疑念を厚労省がこれまで正式に取り上げたことはなかった。
鈴木基感染症疫学センター長の見解
ところが、2022年2月18日に開催された第76回厚生科学審議会で、鈴木基感染症疫学センター長は、超過死亡の原因としてワクチン接種後の死亡の可能性について言及した。
鈴木センター長は上記の図を用いて、
1)原因は結果に時間的に先行することが知られており、この原則をBradford Hillの因果判定基準における時間的関係性と呼んでいる。大阪、兵庫および全国においては、超過死亡は新型コロナワクチン接種の増加に先立って発生しており、超過死亡の発生と新型コロナワクチン接種との間の時系列は説明がつかない。
2)現時点において、ワクチン接種が超過死亡の原因になり得るという科学的根拠は海外からも報告は見られない
という2点を挙げて、超過死亡の原因としてワクチン接種の関与を明確に否定した。戦後最大の超過死亡が観察されたのは事実であるがその原因としては新型コロナの流行やそれに伴う医療の逼迫を挙げ、従来の主張を繰り返した。
医療逼迫が超過死亡の原因なのか?
新型コロナの流行やそれに伴う医療の逼迫が超過死亡の原因ということであるが、大都市圏のみでなく、コロナによる死者がほとんど報告されていない鳥取県や島根県を含めて、全国一律に超過死亡が観察されていることへの説明が必要である。
わが国で報告されたコロナワクチン接種日から死亡までの日数を示すが、死亡日は接種当日、翌日、翌々日に多く、1週間以内に集中している。ワクチン接種直後から死亡が観察されているのが特徴的である。
2021年1月から9月末までの週毎の超過死亡を示す。破線が予測死亡数を示すが、1月の最終週以降、全国で高齢者のワクチン接種が開始される4月12日までは、観測死亡数が予測死亡数を超えることがなかった。すなわち、この間には超過死亡は見られなかった。ところが、ワクチン接種が開始された翌週からは、一貫して観測死亡数は予測死亡数を超え、9月末までの超過死亡の総数は4万人を超えている。
米国においてはVAERS(Vaccine Adverse Events Reporting System)を用いてワクチン接種後の有害事象が収集されている。コロナワクチンの認可は正式な承認ではなく緊急使用許可(EUA)なので、医療機関や製造販売業者は、ワクチンとの因果関係にかかわらず、死亡例の報告が義務化されている。
2020年12月14日にコロナワクチン接種を開始して以来6ヶ月間に、4,496人の死者が報告されている。死因はわが国と同じく、心臓・血管系の病気が多い。病理医による剖検や死因認証で死因が確定した808人においては46.5%の死因が心臓・血管系の病気であった。
ワクチン接種6週後までの死亡は全例報告が義務ではあるが、米国でも全てが報告されているわけではない。ワクチン接種後6週間の死者のうち、VAERSに報告されたのはワクチン接種者100万人あたり23.6人で、この間に推定される死亡者数は993.3人なので、実際に報告されたのは死者の2.3%に過ぎない。
VAERSに報告された死者は4,496人であるので、実際にはその43倍、19万5千人と膨大な死者が存在した可能性がある。もちろん、偶発的な死亡がほとんどで、ワクチン接種との因果関係があるのは少数に過ぎないと思われる。
わが国においても、有害事象としてワクチン接種後の死亡例の全例報告が期待されているが、実際に厚生科学審議会に報告されているのは死亡例の一部にすぎないのではないかと疑念が持たれている。
ワクチン接種後の死亡数を推定
そこで、ワクチン接種後10日間の死亡推定数に対する実際の報告数の割合を算出してみた。驚いたことに、10日間と6週間と期間に違いはあるものの、その割合は2.3%と米国における推定値とわが国の推定値は完全に一致した。
わが国において超過死亡の増加が観察された2021年5月以降の65歳以上高齢者のワクチン接種後の死亡報告は1061人であるので、2.3%という値を用いるとこの期間におけるワクチン接種後の死者は46,130人と推定された。46,130人という数字は、先に述べた2021年4月から9月末までの65歳以上高齢者の超過死亡数の34,758人と不思議に近似している。
図2、図4と日米に共通してみられるワクチン接種後9日以内の死亡報告の集積は、極めて特徴的でワクチン接種と死亡との因果関係を示唆していると考えやすいが、報告バイアスの可能性を主張する研究者も多い。すなわち、ワクチン接種直後の死亡は、担当した医療機関や家族も報告するが、時間が経過するにつれ報告しなくなるのでこのようなパターンになるというのだ。
この点について鈴村氏は興味ある報告をしている。わが国で報告されているワクチン接種後の死亡例をa)50歳未満でワクチン接種1回後に死亡したブループ、b)50歳未満で接種2回後に死亡したグループ、c)50歳以上でワクチン接種1回後に死亡したグループ、d)50歳以上でワクチン接種2回後に死亡したグループに分けて、ワクチン接種と死亡日との関係を検討した。
すると、aグループのみ、他の3グループとはパターンが異なっていた。これより、aグループにおいては偶発的死亡が多く、接種後9日以内においては報告バイアスの関与は軽度であると考えられた。b、c、dグループにおいても、同じ条件で報告されているので、接種後9日以内であれば、報告バイアスの関与は考えにくい。
まとめ
私も、鈴村氏が主張するように、ワクチン接種後の死亡は、偶発的死亡とワクチン接種と因果関係がある死亡の合計である可能性が高いと考えている。厚生労働省は、2022年2月4日までにワクチン接種後に死亡した1,474人のうち、1人たりともワクチン接種との因果関係を認めていない。
戦後最大の超過死亡の原因について、今回の感染症疫学センター長の説明で多くの国民が納得するとは考えにくい。厚労省としても、国民の疑問に答える丁寧な説明が必要である。
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小島 勢二
名古屋大学名誉教授・名古屋小児がん基金理事長。1976年に名古屋大学医学部を卒業、1999年に名古屋大学小児科教授に就任、小児がんや血液難病患者の診療とともに、新規治療法の開発に従事。2016年に名古屋大学を退官し、名古屋小児がん基金を設立。