独連立政権「重火器供給問題」で分裂?

第2次世界大戦終戦から75年以上経過したが、欧州大陸(バルカン半島を除く)で大きな戦争はなく、欧州国民は平和を享受してきた。しかし、今年2月24日、ウクライナ戦争の勃発後、安全保障問題が急浮上してきた。ロシア軍の軍攻勢を受けるウクライナのゼレンスキー大統領は、「ウクライナ戦争は我々の戦争だけではなく、欧州の戦争をも意味する」と主張、北大西洋条約機構加盟国(NATO)に武器の供給を要求してきた。

ウクライナへの重火器供給問題で議論を呼ぶ独連邦議会(独連邦議会公式サイトから)

第2次世界大戦でナチス・ドイツ軍の戦争犯罪問題を抱えるドイツは終戦後、紛争地域への武器供給を禁止してきたためウクライナからの武器供給要求をこれまで拒否してきた。それに対し、ウクライナばかりか、NATO加盟国、そしてショルツ連立政権内からも重火器供給を要求する声が出てきて、3党(社会民主党=SPD、緑の党、自由民主党=FDP)から成るショルツ連立政権で不協和音が聞かれ出した。

ロシア軍のウクライナ侵攻前後、ショルツ政権の対応は迅速で、その決定は歴史的だった。ショルツ首相は2月22日、ロシアとドイツ間のロシア産天然ガス輸送パイプライン建設計画「ノルド・ストリーム2」の承認を停止した。首相自身はメルケル政権下の財政相時代から「『ノルド・ストリーム2』は経済プロジェクトであり、政治的テーマではない」という立場を取ってきたが、それを急遽、「ノルド・ストリーム2の操業開始を停止する」と公表した。同月26日、ウクライナに1000個の対戦車兵器と500個の携行式地対空ミサイル「スティンガー」など、防衛武器の供給を決定。同月27日には、ショルツ首相は連邦議会(下院)の特別会期で、「ドイツ連邦軍特別基金」を通じて軍隊の大幅拡大を発表、この目的のために基本法を変更したいと主張。具体的には、「2022年の連邦予算はこの特別基金に1000億ユーロ(約13兆円)の一時的な金額を提供する」と述べ、「国防費を国内総生産(GDP)の2%以上に引き上げる」と表明した。

ここまでは良かったが、ウクライナ戦争が長期化し、ウクライナからの武器供給の声は一層高まってきた。マリウポリの廃墟化、ブチャの虐殺などが明らかになり、ウクライナ側は欧州連合(EU)の盟主ドイツに対して重火器供給を要求してきた。

重火器は、1990年に締結された欧州通常戦力条約(CFE条約)によれば、主力戦車、装甲戦闘車両、大砲、戦闘機、攻撃ヘリコプターの5つの分類があり、重火器システムの数には上限が設定されている。

ウクライナのクレーバ外相は、ドイツを名指しこそ避けたが、ロシアの侵略を阻止するために自国に重火器を供給したくない国を「偽善」だと非難した。それに対し、ショルツ首相は23日発行の独週刊誌シュピーゲルとのインタビューで、「ドイツは重火器を供給しない」と重ねて主張、「ウクライナは、長い訓練なしで使用できる装備が必要だ。それには旧ソビエト製の武器が最適だ」と説明する一方、「ドイツ連邦軍の在庫武器は既に尽きている。NATO加盟国で旧ソビエト製戦車などを保有している国がウクライナに供給し、ドイツ側が引き換えにそのNATO加盟国を支援するという交換案」を提示した(独語ではRingtauschと呼ばれる)。

ドイツのランブレヒト国防相(SPD)は、「独連邦軍は在庫から重火器を供給できない。連邦軍は、国防と同盟国の防衛を保証する義務があるからだ」と述べている。換言すれば、ドイツ製の最新重火器はNATO加盟国の防衛用であり、ウクライナ防衛のためではないという意味だ。具体的には、レオパルト1戦車やゲパルト対空砲戦車は供給できないわけだ。

ショルツ政権に参加している「緑の党」は安保問題では過去、平和党を自負し、紛争地域への武器供給には強く反対してきたが、ロシア軍のウクライナ侵攻以来、その安保政策は文字通り180度激変した。「緑の党」出身のベアボック外相はウクライナへの重火器供給を支持する最先頭に立っている。同外相はウクライナ支持を前面に出し、キーウを訪問し、ブチャを視察するなど積極的な外交を展開、バルト3国訪問では、ウクライナ支援で連帯と結束を呼び掛けている。

ちなみに、「緑の党」はショルツ首相の案に対して、「十分ではない。ウクライナ戦争が長期化した場合、それでは追い付かなくなる。ウクライナに西側の重火器を供給すべきだ」という立場だ。同じように、FDPは「SPDは重火器供給問題を迅速に解決すべきだ。戦争はわが国の論議が終わるまで待っていない」と強調している。

一方、独連邦議会の第一党野党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)は議会に動議を提出し、ウクライナへの重火器供給の決定を迅速に下すべきだと主張している。CDU/CSU提出の動機は連立与党の「緑の党」とFDPの支持が期待できるほか、SPD内でも支持する議員が出てくることが予想されるため、採択される可能性は高い。採択がロールコール投票で実施された場合、与党内の分裂が一層鮮明化する。

参考までに、ショルツ首相が率いるSPDは過去、ロシア政策では融和路線を支持、16年間のメルケル政権下でも外相を担当し、プーチン大統領のロシアとの関与政策を積極的に推進してきた経緯がある。そのため、SPD内にはウクライナ戦争でロシアと正面衝突することに躊躇する傾向が強い(「メルケル氏はプーチン氏に騙された」2022年3月30日、「ゼレンスキー氏の『アンビバレンツ』」2022年4月15日参考)。

ショルツ首相はシュピーゲル誌とのインタビューで、「ウクライナ戦争が第3次世界大戦につながる危険性を避けなければならない。核戦争があってはならないからだ」と強調し、ドイツ製の重火器供給が戦争を激化させる危険性があるという認識を明らかにしている。その点、バイデン米政権も同様だ。米国はウクライナに対して大砲などの重火器供給を実施するが、東欧のNATO加盟国にあるMIG-29戦闘機のウクライナへの供給には反対している。

プーチン大統領が重視している5月9日の対独戦勝記念日が近づいてきた。ロシア軍はウクライナ東部地域に結集して攻撃を激化させてきた。ドイツはウクライナへの重火器供給問題で厳しい選択を突き付けられている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年4月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。