世界経済フォーラム、通称ダボス会議が始まっています。今回は通常の冬の開催がコロナもあり、延期されオンライン開催などとなっていましたが、ようやく対面の会議が復活したことになります。今回も2500人以上の政治経済のトップクラスがスイスの小さな街、ダボスに集まり、これからの社会、経済、政治を占う議論が繰り広げられます。
今回のテーマは「転換点にある歴史。政策と企業戦略」。基本はオンラインで参加したゼレンスキー大統領、リアルで参加する同国のクレバ外相の演説などを含め、ウクライナ問題が中心課題になります。またインフレ問題、グローバリゼーションの見直しについても議論される見込みです。
2020年1月のリアル会議の際はグレタ女史が地球環境問題について辛辣な講演を行ったことに対して様々な声が上がったものの2021年のCOP26に向けた環境問題への一定の周知がなされたことは皆様、ご存じのとおりです。
では今年、ウクライナ問題が掲げる歴史的転換に経済全般、企業活動にどのような指針を提示するのか、興味あるところではあります。ですが、今回のダボスが盛り上がらない最大の理由の一つは国家首脳の参加が少ないことにあります。フォンデアライエン欧州委員長、ラガルドECB総裁、ドイツのショルツ首相は出席しますが、バイデン氏、習近平氏をはじめ、キーノートスピーカー不在というイメージが強いのです。
これではダボス会議そのものが「転換点にある」のかもしれません。世界に様々な国際会議がありますが、これほどのパワフルなメンバーが一堂に会する会議も類を見ない点において引き続き影響力を維持してもらいたいというのが個人的願望ではあります。
さて世界で歴史的転換が起きているのは事実です。コロナ前まではグローバル化で世界が一体になることを許容し、大小の問題はあれどそれを乗り越える、というのが主たるテーマでした。どこからこのグローバル化が始まったか、と言えば2001年の中国のWTO加盟が起点だったと断言できるでしょう。それから20年強が経ち、中国は変貌し、世界貿易でトップに立ちます。アメリカは1991年のソ連崩壊後、パクスアメリカーナを謳歌していましたが、オバマ元大統領のG20はグローバル化の極みだったと思います。
そこからは下り坂だったといってよいでしょう。アメリカが「世界の警官」から降りたことはオバマ、トランプ両氏が共に認めたステータスであり、バイデン政権においては分裂しつつある世界の勢力地図に明白なくさびを打ち込みつつあります。この地球分断化政策が世界経済に今後どのような影響を与えるのか、ダボスで議論してもポジティブな結果にならないことは目に見えています。
今は地球二分化議論ですが、そのうち、ブロック化して最後は崩壊する公算は否定できません。理由は世界各国があまりにも複雑な「所属意識」に基づく綱引きが起きているからです。例えばバイデン大統領が提唱するIPEF(インド太平洋経済枠組み)で各国がどれだけメリットを得られるのか、他の経済連携とどう絡むのでしょうか?国際関係を複雑怪奇にしているだけのように見えるのです。この地域にはTPPとRCEPがあり、アジアの主要国は既に完全網羅されています。その上、IPEFに既に13カ国加盟表明があるそうです。つまり絡まった糸のようなもので魑魅魍魎の世界と言わざるを得ないのです。
ダボス会議が経済問題を主眼に捉えるのならインフレ問題にもっと焦点を絞るべきでしょう。アメリカのノーベル賞受賞経済学者スティグリッツ氏が「米利上げは経済を殺す、インフレを解消しない」(ブルームバーグ)と述べています。私がずっと言っていた供給側の問題と利上げはリンクしないということをノーベル賞経済学者が主張してくれています。
つまり、現在は経済学的に行き詰っているということに気がついてほしいのです。マネタリストの経済は終焉に近い気がしています。もちろん、ケインジアンに戻ることもありません。新しい経済学派の出番をまつ、これが今のマクロ経済だと思っています。このような議論がダボスで本来は行われるべきことであってロシアを排除し、ウクライナに同情すれどそれがダボスの主眼ではないということです。これがイマイチ、盛り上がらない最大の理由ではないかと個人的には思っています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年5月24日の記事より転載させていただきました。