安倍晋三元首相が7月8日、凶弾に倒れご逝去されました。
世界各国の首脳は相次ぎ、哀悼の意を表しています。
〇ホワイトハウスに掲載されたバイデン大統領追悼の意は、「安倍晋三元首相の殺害(the Killing of Former Japanese Prime Minister Abe Shinzo)」とが表題とされていました。バイデン氏の無念な気持ちが伝わってきます。安倍元首相に敬意を表し、連邦政府の施設や国内外の米軍施設などで10日の日没まで半旗の掲揚を指示したことは、バイデン氏や米国にとって大きな損失だったことの何よりの証です。
「私の友人である安倍晋三元首相が選挙活動中に銃撃され死亡したというニュースに、私は唖然とし、憤慨し、深く悲しんでいます。これは日本にとって、そして彼を知るすべての人々にとって悲劇です。
私は、安倍首相と密接に仕事をする機会に恵まれました。副大統領として、私は東京に彼を訪ね、ワシントンに彼を迎え入れました。彼は、日米同盟と日米国民の友情の擁護者でした。日本の首相として最も長く在職し、自由で開かれたインド太平洋という彼のビジョンは、今後も続くでしょう。
とりわけ、彼は日本国民を深く思いやり、その生涯を日本国民への奉仕に捧げてきました。攻撃された瞬間も、彼は民主主義の仕事に従事していました。私たちはまだ多くの詳細を知らないが、暴力的な攻撃は決して容認できるものではなく、銃による暴力は常にその影響を受けた地域社会に深い傷跡を残すということを私たちは知っています。米国は、この悲しみの瞬間にある日本とともに歩んでいます。彼のご家族に、深い哀悼の意を表します」
ブリンケン国務長官は急遽、安倍元首相の弔問としてタイから訪日する方針を決定。ブリンケン氏が日本を発つ直後となる7月12~13日に、イエレン財務長官が訪日します。ただ、残念ながら横浜港の訪問など民間との交流イベントはキャンセルされました。
〇クアッドとしても、ホワイトハウスから追悼のメッセージが掲げられました。
「豪印米の首脳は、日本の安倍晋三元首相が悲劇的な暗殺を受けたことに衝撃を受けています。安倍元首相は、日本にとって、また日本とそれぞれの国との関係にとって、変革をもたらすリーダーでした。また、クアッドのパートナーシップの創設において形成的な役割を果たし、自由で開かれたインド太平洋のための共有ビジョンを推進するために、たゆまぬ努力をされました。この悲しみの瞬間、我々は日本の人々、そして岸田首相と心を一つにしています。我々は、平和で豊かな地域の実現に向けた取り組みをさらに強化することで、安倍首相の思い出を称えます」
その他、G7諸国の首脳などの追悼メッセージは以下の通り。””と「」内の内容は、原文訳となります。
〇カナダのトルドー首相:”安倍晋三元首相暗殺事件に関する首相声明”
「安倍晋三元首相が暗殺されたことを知り、信じられないほどの衝撃を受け、深い悲しみを覚えています。カナダは、このひどい攻撃を最も強い言葉で非難し、この困難な時期にある日本の人々とともに歩んでいきます。カナダは、安倍晋三氏の首相在任中に拡大・深化した日本との強固な友好関係を非常に重視します。安倍氏は献身的で先見性のあるリーダーであり、カナダの親しい友人でした。我々は、安倍首相が2019年4月にオタワを訪問した際に安倍元首相と私が合意した自由で開かれたインド太平洋地域という共通のビジョンに、引き続きコミットしていきます。
カナダと日本は、暴力や脅迫のない自由で公正な選挙など、民主主義の価値に対する強く揺るぎないコミットメントを共有しています。選挙期間中のこの無意味な暴力行為は、深く憂慮すべきものです。我々は、民主主義を蝕むいかなる暴力、脅迫、威嚇にも常に反対していきます。
すべてのカナダ人を代表して、安倍首相のご家族とご友人、そして日本国民の皆様に、このとてつもない損失を悼みながら、深い哀悼の意を捧げます。友よ、あなたを失い寂しく思います」
〇ドイツのショルツ首相:ツイッターより
(出所:Bundeskanzler Olaf Scholz/Twitter)
〇フランスのマクロン大統領:ツイッターより
(出所:Emmanuel Macron/Twitter)
〇イタリアのドラギ首相:”マリオ・ドラギ首相、安倍晋三氏の死去に対し(岸田)首相および(日本)政府に対し深い哀悼の意を表する”
「イタリアは、日本とその自由な民主主義的議論に影響を及ぼす、この恐ろしい攻撃に衝撃を受けています。安倍元首相は、その革新的な精神と改革的なビジョンにより、過去数十年にわたり日本および国際政治をリードしてきた人物です。イタリアは、安倍総理のご遺族、政府、そして日本国民全体に思いを寄せています」
〇英国のジョンソン首相:ツイッターより
(出所:Boris Johnson/Twitter)
〇エリザベス女王:”安倍元首相の死去を受け、女王から追悼のメッセージ”
「この困難な時期に、彼のご家族と日本の皆さまに、心からのお悔やみとお見舞いを申し上げたいと思います。安倍晋三元首相が突然、悲劇的な死を遂げたというニュースを聞き、私たち家族は深い悲しみに包まれています。2016年に英国を訪問された際、安倍さんご夫妻にお会いしたことは、とても良い思い出です。
彼の日本への愛と、英国との絆をこれまで以上に緊密にしたいという思いは、明らかでした。この困難な時期に、安倍氏のご家族と日本の皆さまに、心からのお悔やみとお見舞いを申し上げます」
BRICs諸国からは、以下の通り。
〇ブラジルのボルソナロ大統領:ツイッターより(3日間、喪に服すことをツイッターで表明)
「― 日本の皆様にお見舞い申し上げます。
– 安倍晋三元首相。
– ジャイル・ボルソナロ大統領
安倍晋三元首相の訃報に接し、憤りと悲しみを禁じ得ません。安倍氏は、ブラジルの偉大な友人であり、優れた指導者でした。安倍元首相のご遺族と日本の同胞に連帯の意を表するとともに、この痛みに耐えている人々の魂を神が見守っていてくれることを祈ります。日本国民に対する敬意、安倍晋三のブラジルとの友好関係に対する認識、そしてこの不当な残虐行為に直面した我々の連帯の証として、私は全国で3日間の喪に服すことを決定しました。彼の暗殺が厳罰に処されますように。私たちは日本とともにあります」
(出所:Jair M. Bolsonar/Twitter)
〇ロシアのプーチン大統領:”安倍洋子様、安倍昭恵様”と題した声明を公表
「ご子息であり、夫君である安倍晋三氏のご逝去に、深くお悔やみ申し上げます。
日本政府を長く率い、両国の善隣関係の発展に尽くした偉大な政治家が、犯罪者の手によって殺害されてしまいました。
私たちはシンゾーと定期的に連絡を取り合い、彼の優れた人間性とプロフェッショナルな資質が十分に発揮されていることを確認しました。この偉大な人物の祝福された記憶は、彼を知るすべての人々の心の中に永遠に残ることでしょう。
このかけがえのない大きな喪失に際し、あなたとあなたのご家族が不屈の精神と勇気を発揮されることを祈っています」
〇インドのモディ首相:”私の友、安倍さん(原文:My Friend Abe-san)”とする日本語の声明とツイッターを掲載
※声明では10枚の安倍元首相との写真を掲載、ここに全て紹介できないほどの長文で敬意を賛辞、追悼の意を表していました。また、9日間に及び全土で喪に服すと表明しています。
「傑出した日本の指導者、比較なしのグローバル政治家、そしてインド日本友好関係の偉大なチャンピオンである安倍晋三氏がもう我々の中にはいなくなってしまいました。日本そして世界が偉いビジョナリーを失い、私は親愛なる友人を失いました・・・安倍元総理の温かさ・知恵・優雅、気前、友情と指導に対していつ窓も感謝をしていきたいと思います。いつまでも懐かしく思います。安倍氏がインド国民をご自分の心を開いて抱き寄せてくれたことと同じように、インド国民がその仲間一人として安倍氏の逝去を悼んでいます。安倍氏がもっとも好きだったこと、人々にひらめきを与えている最中に逝去されました。お命が途中で悲惨的に短くなったかもしれませんが、安倍氏のレガシーがいつまでも続きます」
(出所:Narendra Modi/Twitter)
中国の習主席:外交部が習主席の追悼メッセージ「安倍晋三元首相死去に伴う、習近平による岸田文雄首相に弔電」を公表
「2022年7月9日、習近平国家主席は、日本の安倍晋三元首相が死去したことについて、岸田文雄首相に弔電を送りました。
習近平は、中国政府と国民を代表し、また個人的には、安倍晋三元総理大臣の突然の悲劇的な死に対して深い哀悼の意を表し、ご親族にお見舞いを申し上げました。
習近平は、安倍晋三前首相が在任中に中日関係の改善に努力し、有益な貢献をしたことに言及しました。 ”私は、新しい時代の要請に応える中日関係の構築について、彼と重要なコンセンサスを得ました。 突然の訃報に接し、深い悲しみに包まれています。 私は、首相とともに、中日間の善隣友好協力関係を、日中間の4つの政治文書で定められた原則に従って引き続き発展させていく用意があります”。
同日、習近平国家主席と彭麗媛夫人から、安倍晋三元首相夫人である安倍昭恵氏に弔意とお見舞いのメッセージが送られました」
――以上の首脳声明やツイッターをみると、いかに安倍元首相が世界のリーダーとの間で信頼関係を築き、尊敬されてきたかが伺えます。「自由で開かれたインド太平洋」の提唱者なだけに、バイデン大統領やモディ首相の追悼メッセージとそれに続く指示を通じ、安倍元首相への熱い敬意と悲嘆に暮れる思いが同時にひしひしと伝わってきます。プーチン大統領は、昭恵夫人とご母堂様宛ての声明を公表するとは、近しい関係性を物語っていました。ボルソナロ大統領の連投ツイッターからは、追悼の意と共に激しい憤怒が感じられました。
その他、各国首脳を始め世界のリーダーなどからの追悼メッセージなどについては、安倍元首相をカバーに取り上げることを決定したタイム誌を始めアルジャジーラ、モスクワ・タイムズ紙などで確認できます。あってはならない銃撃事件により命を失った安倍元首相への、なみなみならぬ各国からの思いが伝わってきます。
各国の首脳や著名人、有識者の追悼メッセージや報道などを振り返ると、安倍元首相が世界で評価された理由は以下の3つではないかと捉えられます。
1)民主主義の擁護者
・ミシェル欧州大統領のツイートにある通り、安倍元首相は「多国間秩序と民主主義的価値の熱烈な擁護者」としての地位を不動のものとしていました。ワシントン・ポスト紙では、異例のトリビュート記事を連発し、そのうちの一つでも「安倍元首相は、日本の外交政策に積極的なリーダーシップを発揮し、安全保障政策を大きく変え、米英などの伝統的な擁護者が退却する中で、自由主義的国際秩序への支持を強めた」と賛辞を送っていました。BREXITやトランプ大統領の誕生で揺れる世界において、環太平洋パートナーシップ(TPP)を含め力強いリーダーシップを発揮したことへの称賛と言えます。
2)自由で開かれたインド太平洋の提唱者
・中国包囲網の枠組み作りの素地を築き、今ではクアッドに発展し権威主義国に立ち向かう体制が整備されつつあります。ロシアによるウクライナ侵攻の局面で大きな意義を与え、先進国だけでなく台湾や新興国の発言力を高める役割も果たしました。
・さらに、軍事演習の拡大にもつながりました。今では、インド太平洋の協力推進で日仏2プラス2が深化しつつあり、英国は哨戒艦2隻を年内にインド太平洋地域に「恒久的に展開」することを決定。インド太平洋の枠組みが欧州に広がる橋渡し役となりました。
3)国内外での経済政策
・CSISのマシュー・グッドマン上級副所長兼政治経済部長兼アジア経済担当上級アドバイザーは、追悼を表す寄稿で「安倍首相が残した遺産には、防衛力の強化、外交の活性化、よりオープンで親しみやすい国づくりなど、さまざまな実績が含まれている。しかし、安倍首相が最も大きな功績を残したのは、経済政策、特に世界経済のルールを更新し、維持するための努力であることは間違いない」と指摘していました。
・1つは、アベノミクスの成功であり、大胆な金融政策と機動的な財政政策は、コロナ禍での世界各国に手本となりました。
・さらに、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への参加と拡大に貢献した功績のほか、2015年に公表した”質の高いインフラパートナーシップ”を通じ、一帯一路への対抗軸を明確化した点が挙げられます。これらの政策により、アジア諸国を中心とした新興国の結束力を向上させ、結果的に各国から一段の信頼と敬意を寄せられるようになったのではないでしょうか。
4)各国間の橋渡し役として、卓越した手腕
・これは完全に私見ですが、安倍氏の首相時代の首脳会議などの様子をみると、見事に対立する国の首脳の間に挟まれていることが多いのですよ。米大統領選を意識するトランプ大統領とプーチン大統領の間(2019年6月、大阪G20サミット)、米中貿易摩擦の最中でトランプ大統領と習主席の間(2019年6月、大阪G20サミット)、なんて、とでもじゃないですが座っていられません。議長国だという事情もあるのでしょうが、安倍元首相がいかに各国間首脳との関係を深め信頼を築いた上で、卓越した政治力を発揮していたことが伺えます。
5)女性の地位向上
・クリントン元国務長官がツイートしたように、女性の地位向上に取り組んだ功績が挙げられます。実際、日本国内で女性活用を着実に進展させ、2020年までに女性リーダーを3割にする目標に届かなかったものの機運を高めたことは間違いありません。
筆者としては、あらためて安倍元首相の存在の大きさを実感すると共に、喪失感で胸がいっぱいです。凶弾によってパンドラの箱が開けられ、混沌な世界に投げ出されたような気持ちですが、最後には希望が残っていると信じています。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年7月10日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。