消えた新聞広告「尋ね人」、増える「ペット探し」にみる世相

人よりペットとの絆が大切

新聞広告「尋ね人」は世相を映す鏡でした。「太郎、連絡を待つ。父」、「花子、心配するな、すぐ帰れ。母」、「次郎、父病気、会いたし。兄」など、社会面の片隅にほんの一行載る広告には、社会の歪み、悩みが反映されていました。

いわゆる「3行広告」の一つで、求人、求職を3行で載せる広告を読むと、景気のよしあし、失業者の思いなど社会の実相がうかがえました。「尋ね人」広告は多くが1行でした。スペースを取らず、格安でしたから「3行広告」に分類されていました。

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その「尋ね人」広告がほとんど姿を消しました。それに代わって目立つのがペット探しの貼り紙です。私の家の周辺でも店の外壁に「猫を探しています。推定5、6歳の茶トラの男の子です。名前はガブリエル。保護された方、見かけた方は下記(電話番号)までご連絡下さい」と。

「左耳に耳カット、口元は白、尾は短く太い」。全体、耳、尾の3枚の写真付きという詳細な情報提供で、飼い主の必死の願いが伝わってきます。別の店には「迷子の猫を探している方へ。ご連絡を」の貼り紙に電話番号が付記されていました。

ネットを調べると、犬猫写真アプリ「ドコノコ」という名のサイトに「迷子掲示板」というのがあり、毎月200件以上のアクセスがあるそうです、内訳は猫85%、犬15%となっています。

猫は勝手気ままで、放し飼いですから、自由に出歩き行く方不明となる。犬は飼い主がリードをつけて散歩を一緒にしますから、簡単には家出はできません。国全体の飼育頭数は猫950万匹、犬900万匹とか。

老人だけになった夫婦、もともと少ない数の子供が独立した家庭が増え、心を許せるペットが唯一のパートナーになっている。そんな社会構造の変化が犬猫探しの貼り紙の増加になっているのでしょう。

一方、人間のほうは、青少年らが親子の絆の断絶から家出をしても、本気で探さない。新宿歌舞伎町の通称「とうよこ」などにたむろし、仲間ができている。若いたちは新聞は読まないから、「尋ね人」広告は意味がない。

家庭が崩壊し、住む場所を失った大人はホームレスとなり、探す人もいないし、ホームレス本人も「放っておいてくれ」なのでしょう。もちろん新聞もとっていない。

景気低迷、失業増大でホームレスの数は高水準のはずです。「2003年は2.6万人、19年は5000人で、減ってはきている」という統計があります。コロナ不況、景気低迷で職、家を失う人は依然、多いはず。どこまでこの数字を信用していいのか。

ですから、新聞広告「尋ね人」が姿を消すもの当然です。もっともネットにいくつか「尋ね人サイト」があり、「行く方不明者に関する情報提供」を受け付けています。認知症で徘徊老人となり、家族が探す場合は、警察や自治地が窓口になっています。

「失踪、家出などの行く方不明者」の警察への届け出は、22年7月現在、全国で年間8万人です。10代、20代、30代が各1万-1万5千人、70代、80代以上は各1万人です。家庭の事情、病気(認知症など)、事業の失敗などが原因とされています。

人間の行く方不明者は認知症の場合などを除くと、必死に人探しはしない。それがペットとなると、懸命になる。そこに世相の変化を見るような気がします。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2022年11月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。