ワクチンを接種するほど死亡率が下がるという神奈川県の発表は本当か?

小島 勢二

Roman Chekhovskoy/iStock

日本のコロナワクチンの接種回数は世界でも断トツなのに、コロナの流行が止まらない。ワクチン接種を勧める専門家は、感染予防はできなくても重症化予防効果があるというが、昨年12月の死亡者数は1万人を超えている。こうなると、ワクチンに重症化や死亡を減らす効果が本当にあるのか疑いたくなる。わが国における接種回数別の死亡率を是非とも知りたいところである。

最近、神奈川県が65歳以上の高齢者におけるワクチン接種回数別の死亡率を分析し、その結果を県のホームページに掲載した。

表1にその結果を示す。研究の対象は、診断日が昨年7月1日から12月20日までのコロナ感染者で、データはHER-SYSから抽出した。なお、一部のデータは神奈川県新型コロナ療養サポートシステムから補充した。

表1 65歳以上の高齢者におけるワクチン接種回数別の死亡率の比較
神奈川県健康医療局医療危機対策本部発表データを改変

集計した感染者の総数は147,374人で、うち、死亡者数は850人である。感染者、死亡者のうちワクチンの接種回数など詳細な情報を把握できたのは、およそ半数で、それぞれ、77,008人、425人である。

未接種者、1回目、2回目、3回目、4回目、5回目接種済みグループの死亡率は、1.42%、1.27%、0.97%、0.55%、0.33%、0.21%で、接種回数を重ねるごとに死亡率は低下した。とりわけ、3回目以降の追加接種を受けることで、未接種者と比較して1/3〜1/7に死亡率は低下した。

ワクチンの追加接種の有効性を示す結果であるが、

  1. 研究対象の半数しか接種回数が把握できていない
  2. 接種回数別の観察期間の違いが考慮されていない

など、この結果を額面通りに受け取れない。

厚労省の発表するデータにおいて、ワクチンの接種歴不明者が未接種者として扱われ、その結果、有効率の水増しがあったことは記憶に新しい。そこで、この2点を考慮した場合に、結果に変化が見られるかを検討した。

接種歴はあるものの接種回数や最終に接種してから経過した日数が不明の45,876人については、接種回数が判明している69,179人の接種回数の割合に応じて1〜5回接種に振り分けた。149人の死亡者数についても同様に、接種回数が判明している312人の接種回数の割合に応じて1〜5回に振り分けた。

接種歴が不明の24,490人については、接種者と未接種者に分けなければならないが、接種歴が判明している130,713人のうち、未接種者は7,829人(6%)であることから、調査対象の未接種者の総数は、147,374人×0.06=8,842人と推定される。確定している未接種者数は7,829人であることから8,842人―7,829人=1,013人が接種歴不明者のうち未接種者が占める人数である。

次に、接種歴不明者のうち、接種歴があると考えられる人数を、24,490人―1,013人=23,477人と推定した。この23,477人を先と同様に1〜5回に振り分けた。接種歴不明の死亡についても、接種回数が判明している425人の接種回数の割合に応じて、0〜5回目に振り分けた。

こうして得られた回数別の接種者数と死亡者数から計算した接種回数別の死亡率を表2に示す。未接種者、1回目、2回目、3回目、4回目、5回目接種済みグループの死亡率は、2.06%、1.48%、1.03%、0.58%、0.35%、0.23%で、先のデータと同様に接種回数を重ねるごとに死亡率は低下した。

表2 情報不明者を0〜5回接種済みに振り分けた場合のワクチン接種回数別の死亡率
神奈川県健康医療局医療危機対策本部発表データを改変

ところで、今回の研究は、診断日が昨年7月1日から12月20日までのコロナ感染者を対象としているので、ワクチンの接種回数によって観察期間が異なる。

死亡率の算定は、分子を観察期間中に把握された死亡者数、分母を各グループの接種者数として計算される。未接種者群では、7月1日から12月20日までの25週間に観察された死亡数が分子となる。一方、わが国で5回目接種が開始されたのは、昨年の9月20日頃なので、5回接種済みグループの観察期間は、最長でも12週以内である。

このように観察期間が異なる集団の死亡率を比較するには、人年法によって死亡率を計算することができる。人年法における分子は死亡数であるが、分母は、対象者の観察期間を合計した人年となる。本研究のように対象集団の人数が多い場合は、観察期間の中央値に人数を掛けて人年とすることができる。

今回の研究には、接種回数ごとに、観察期間の割合が記載されているので、中央値の推定が可能である。その結果、未接種、1回目、2回目、3回目、4回目、5回目接種済済みグループの観察期間の中央値は、25週、25週、23週、21週、10週、2週と推定した。

表3には、この推定中央値を用いて計算した接種回数ごとの死亡率を示す。未接種、1回目、2回目、3回目、4回目、5回目接種済みグループの死亡率は、0.057、0.051、0.042、0.026、0.033、0.0104%となり、5回目接種済みグループでは、未接種グループと比較してかえって死亡率は高くなった。

表3 人年法によるワクチン接種回数別の死亡率
神奈川県健康医療局医療危機対策本部発表データを改変

表4には情報不明者を0〜5回接種済みに振り分けた推定値を用いて、人年法で死亡率を計算した結果を示す。

未接種、1回目、2回目、3回目、4回目、5回目接種済みグループの死亡率は、0.084、0.060、0.045、0.028、0.035、0.114%であった。振り分けた推定値を用いない場合と同様に、5回目接種済みグループでは、未接種グループと比較してかえって死亡率は高くなった。

表4 情報不明者を振り分けた場合の人年法によるワクチン接種回数別の死亡率
神奈川県健康医療局医療危機対策本部発表データを改変

神奈川県の発表では、ワクチンを5回接種すると、未接種者と比較して死亡率が1/7に減少することが示されたが、観察期間の違いが考慮されていない。同じデータを用いて、観察期間を考慮した人年法を用いて死亡率を計算すると、結果は大きく異なっていた。

最近発表された基礎研究、臨床研究は、ワクチンの追加接種することで、かえって感染しやすくなることを示している。ワクチンの追加接種を推奨する拠り所は、重症化予防効果によって死亡率を下げる効果があるということであるが、今回の結果は、そのような主張に疑問を投げかけるものである。

ワクチンの追加接種は、世界の中でも日本が先頭を走っており、5回目接種の意義については、日本から情報を発信することが期待される。

昨年9月からコロナ患者の発生届が簡素化され全数把握から65歳以上の高齢者やハイリスク患者に限定されたが、発生届には、ワクチンの接種回数や直近のワクチンの接種年月日の記載が含まれていることから、今回の神奈川県と同様な分析は可能である。5回目接種の意義について全国規模での検討を要望する。