OECDが発表したエコノミック・アウトルック最新号によると、「世界のGDP成長率が2016年は基本的に2015年とほぼ同水準の3%に止まると予測されていますが、主要新興市場における貿易の低迷、投資の不振、賃金の伸び悩み、経済活動の遅滞がすべて、その要因となっています。世界経済は2017年にわずかに回復して3.3%になると見込まれています。」
今年度や来年度の世界経済の予想を見る限り、どうやら安倍首相がサミットで主張したような今そこにあるリスクを、OECDは認識してはいないようである。ただし、リスクが存在していることはOECDも指摘しているが、それは例えば英国のEU離脱リスクである。さらに日本については「前例なき高水準の公的債務が主要リスクのひとつ」だと指摘している。
安倍首相は6月1日に消費増税の先送りを正式に表明し、さらに「総合的で大胆な経済対策」を講じる考えも表明した。いくら財政規律は守ると主張しようが、そのための増税を回避する上、国債発行を仮に伴わなくても本来国債の償還に充てるべき資金で大規模な経済対策を打つのであれば、「リスクには備えねばならない」(安倍首相)というよりも、OECDが指摘したリスクを増加させているようにすら映る。
また、今回のエコノミック・アウトルックでは興味深い記述もみられた。「追加的金融緩和は過去と比較して有効ではなく、状況によっては逆効果になり得る」と指摘していた点である。
これについて金融市場関係者であれば、昨年末あたりから様子がおかしくなっていることは薄々気がついていたとみられる。FRBが利上げ、つまり正常化をする姿こそがあたりまえのように見えてきたなかでの、ECBや日銀の追加緩和について市場はポジティブな反応をしなくなった。というよりもむしろネガティブな反応をした、アウトルックでの指摘も、追加緩和が特に市場を経由しての影響力に対して逆効果となっている状況を危惧したものかと思われる。
伊勢志摩サミットや今回の消費増税延期に関する表明でも、ひとつ抜け落ちているものがあった。アベノミクスの柱のひとつであったはずの日銀の異次元緩和に関するものである。日銀の大胆な緩和がなければこんなものでは収まらなかったと主張したかったのかもしれないが、世界経済は米国が利上げできるほどにリスクは後退しており、この間に日本だけが大きなリスクに晒されることは考えづらい。
結果から言えば日銀の異次元緩和は物価目標を達成する手段とはなり得なかっただけである。大胆に国債を中央銀行が買い入れて、マネタリーベースを倍以上に増やしても物価に影響を直接与えることはできず、むしろ財政ファイナンスのような状況を作ってしまい、財政規律の緩みというリスクをむしろ増加させてしまったといえるのではなかろうか。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年6月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。