「夢」という名の射幸心~国営オンラインギャンブルを可能にする「宝くじ法改正」

新 清士

3月30日に、宝くじに関する改正当せん金付証票法が成立した。1等賞金を7億5000万円に引き上げ、インターネットとコンビニ販売を認めるという内容だが、要は購入者の射幸心を煽って、売上の回復を図ろうという法律だ。

この改正のために、昨年10月から12月にかけて行われた総務省の宝くじ活性化検討会の会合資料や報告書にいろいろ興味深いデータが載っている。報告書の副題が「宝くじ、いま新展開のとき~夢おこしを社会貢献に~」というタイトルになっている。つい笑ってしまったのだが、それは、私が宝くじに「夢」を見ないからだろう。


宝くじの当選金は、全体の45~46%が当選者に配分される仕組みになっている。残金のうち経費の12~14%程度の経費が差し引かれたのち、残った約40%は、発行主体である地方公共団体の収益金として財政に組み込まれる。

宝くじはピーク時の2005年度には1兆1047億円も売り上げていたのが、2010年度には9190億円。地方財政にとっては、約0.6%を占める重要な財源であるため売上の減少は、ゆゆしき事態というわけだ。

宝くじ売上推移

【総務省「第1回宝くじ活性化検討会説明資料」より抜粋】

一体、誰が宝くじを買っているのだろうかと、公開されている調査データを見ると、2010年の調査では18歳以上人口の1億0632万人に対して、年1回~月1回未満の購入者(ライトユーザー)は約4186万人(34.9%)、月1回以上購入している「宝くじファン」と呼ばれるヘビーユーザーは約1424万人(13.4%)。

全体の年間平均は2万7880円に対して、ヘビーユーザーの購入金額は7万520円にも及ぶ。それに対して、ライトユーザーは2万2320円だ。これをユーザー数と単純に掛け合わせてみると、全体の約6割の売上をヘビーユーザーが支えているという現状が見えてくる。

宝くじ購入者の人数は2007年の調査から、ほとんど変化していない。金額の減少は、個々の購入者の年間購入金額の減少が大きい。ヘビーユーザーは8万5100円のため、2010 年は17.1%減少している。ライトユーザーは2万2320円と22%も高かった。約55%前後をヘビーユーザーが支えている。ただ、全体の依存率は3年前の方が低かったと推定される。(全体平均は3万6280円)

宝くじユーザー推移

【総務省「第1回宝くじ活性化検討会説明資料」より抜粋】

この宝くじの売り上げの減少の要因を、報告書では、平均個人所得の減少、販売店の減少、魅力ある新商品の不足、スポーツ振興くじのtoto(管轄は文部科学省)へのシフトといった点を上げている。

ここからの論建てが、結論ありきな印象で、ある意味おもしろい。

高額1等賞金に魅力を感じている人は、ヘビーユーザー(32.1%)が、ライトユーザー(26%)よりも高い。それが1等賞金の引き上げの根拠の一つになっていると思われる。実際には、賞金金額は少なくてもいいので当選確率を高めることを希望する人の方が圧倒的に多いのだが。

また、宝くじの販売チャネルについての希望は、「売場の増加」、「インターネットでの購入」、「購入できるコンビニの増加」、「売場の営業時間延長」が多い。ただ、他の設問も含め、そもそも販売機会の増加する方向にしか、設問がないアンケートのようにも見える。

さらに、宝くじの購入理由で複数回答として、「賞金目当て」(47.9%)がトップだが、次に「宝くじには大きながあるから」(47.9%)、4位に「当たっても当たらなくても楽しめるから」(34.2%)なっている。

ここに「夢」というキーワードが報告書に出てくる根拠があるのだろう。宝くじのイメージという設問でも「夢がある」という回答が最も多い。「夢」を買ってもらって、地方公共団体の収益になる。だから、「夢おこしを社会貢献に」である。

まあ、私の場合は、宝くじ非購入者(24.8%)で、非購入理由がトップの「当たると思わないから」(57.9%)のため、影響はないのだが。一度、web宝くじシミュレーターで、いかに宝くじが当たらないものなのかの検証をお勧めしたい。ちなみに、年末ジャンボで140万枚買ってやっと2億円が当たった。もちろん、赤字である。当選率は約11%で、無限に続けると購入資金の回収率がどうなるのかは説明不要であろう。当たる気がするのは、人間の知覚の錯誤にすぎない。

ただ、気になることもある。改正法では「受託銀行」となっていたのが「受託銀行」といった形で変更され、かなり自由に販売チャネルを設定できるよう変更された点だ。

報告書では、「インターネット販売」と「コンビニでの販売」がうたわれている。totoのインターネット販売シェアは年々増加し52%にも達している。同じように、宝くじも販売機会を広げたいという意図は見える。

それ以上に気になるのは、インターネット専用の新商品開発として「遊び心のあるくじ(例:スマートフォンで気軽に楽しめるくじ)の開発」という項目があることだ。こうした宝くじ商品の登場には、懸念を感じる。

容易に購入できるスマホ宝くじが登場すれば、インターネット上のビジネスに一般的に見られるように、これまで以上にヘビーユーザーへの依存度が高まることが十分に予測される。

国が認めているとはいえ、宝くじはれっきとしたギャンブルである。現在公開されているデータには、使用金額の大きなユーザーが、どの程度存在するのかは明らかにされていない。宝くじでも起きていると考えられるギャンブル依存症が加速化される可能性がある。また、同時に、アメリカや韓国では禁止されているオンラインギャンブルを営む道も開くことにもつながる。

果たして、これは「夢」なのだろうか? 自治体の税収が減収しているからといって、社会的に認めてよいものだろうか? それとも、「夢」に喜んでお金を払ってくれる人がいるのなら、どんどん仕組みを作って、買ってもらった方がいいのだろうか?

新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT) @kiyoshi_shin