多くの研究者に、毎日のように粗悪な学術誌・学術集会の案内メールが届く。
学術誌を世界中の図書館が購入する時代があった。今では学術誌はネット上に収蔵され、閲覧すると費用が掛かる。こうして図書館や閲覧者、つまり利用者側が出版費用の一部を負担する。
論文を書いた研究者は、紙の時代には「別刷り代」を出した。自分の論文だけ抜き出して印刷し表紙を付けた小冊子を別刷りと呼ぶ。関係者に配布すれば学術的な評価を受けたとアピールできた。別刷りがなくなった今、投稿料の支払いを求められる場合がある。こうして論文の提供側も出版費用の一部を負担する。
紙の学術誌なら、印刷し製本し、世界中に配送する費用が掛かった。しかし今ではサーバー代だけである。利用者と提供者からの収益に比べれば安く済むので、学術誌の発行は儲けが期待できる事業になった。
手っ取り早く論文数を増やして業績評価されたい研究者は、簡単な審査で採用されると謳う学術誌にひっかかる。「著名なあなたは投稿料不要」といった甘い罠も繰り出される。発行者はカモを集めて利益を得る。こうして粗悪な学術誌が横行する。
InterAcademy Partnership(IAP)が粗悪な学術誌・学術集会の横行を警告する報告書を公表した。わが国では、文部科学省 科学技術・学術政策研究所が翻訳「粗悪な学術誌・学術集会を拡げないために」を公開している。
先の記事「特許横取りではなく、安全管理措置が問題」で、安全保障上機微に触れる研究開発では、研究者の適格性審査が必要だと説明した。
適格性審査にも業績評価が伴うから、粗悪な学術誌・学術集会問題が関連する。粗悪な学術集会には、「先生、先生」と持ち上げて技術情報を盗もうとするサクラが紛れ込んでいる恐れもある。
粗悪な学術誌・学術集会問題には技術安全保障の観点からの検討も求められる。というわけで、情報通信政策フォーラム(ICPF)では、7月25日に、技術安全保障研究会で座長を務められた玉井克哉東京大学教授に「秘密特許制度と技術安全保障」と題して講演いただくことにした。ぜひ、ご参加ください。