コロナウイルス感染罹患後の後遺症とともに、コロナワクチン接種後に遷延する症状(ワクチン後遺症)が問題となっている。両者の症状は共通するものが多い。表1は、筆者に紹介されたワクチン後遺症患者の一覧である。
中・高校生もいるが、それ以外は全員が中年女性である。血小板減少症のように、一つの臓器に限られた症状を示す場合もあるが、多くは一臓器に止まらず、多彩な症状がみられるのが特徴である。症状は重篤で、寝たきりや、8kg〜10kgの体重減少が見られた症例もある。成人は休職を余儀なくされ、中・高校生も休学や退学している。
脱毛が主訴の1人を除いて、症状はワクチン接種から3週間以内に出現した。接種翌日から強い炎症反応が見られ、39度の弛張熱が2カ月間も持続した症例や頭髪が完全に抜け落ちるなど特異な症状を示した症例も見られた。倦怠感が強く、2人は慢性疲労症候群と診断された。脱毛のみで全身症状が見られなかった1人を除いて、全員が症状の持続期間は1年を超えていた。
コロナワクチン後遺症で検索すると、厚労省ホームページには以下のような記事が掲載されている。
Q:ワクチン接種後に遷延する症状(いわゆる後遺症)が生じるのでしょうか。
A:現時点においては、ワクチンが原因で後遺症が起きるという知見はありませんが、実態を把握する研究に取り組んでいます。研究班の調査結果では、症状の持続期間が31日以上の事例を含めて、現時点で懸念を要するような特定の症状や疾病報告の集中はみられず、
多くの事例で症状は軽快あるいは回復しています。
厚労省のホームページにある説明と筆者が経験した症例とは随分様相を異にする。
研究班の調査は、全国の専門的な医療機関に調査票を送付して、医師から提供のあった140人の情報を分析したものである。研究は「新型コロナワクチン追加接種並びに適応拡大にかかわる免疫持続性及び安全性調査研究班」に属する分担研究班「新型コロナワクチン接種後の遷延する症状に係る実態調査」(分担研究者、 国立国際医療研究センター、 大曲 貴夫国際感染症センター長)が実施した。 なお、研究事務局支援として株式会社アクセライズの名前が付記されている。
アクセライズは民間の医薬品業務受託機関(CRO)で、ホームページには、業務内容として、臨床研究の企画、研究事務局支援、データーマネージメント、解析、論文作成の受託が紹介されている。2021年度には、「新型コロナワクチン追加接種並びに適応拡大にかかわる免疫持続性及び安全性調査研究班」には12億2千万円の研究費が国から交付されているので、受託費用は、その研究費で賄われたと想像される。
新型コロナワクチン後遺症患者の会も、320人の会員を対象に厚労省研究班とほぼ同じ内容のアンケート調査をおこなっている。今回、患者会から筆者に調査結果の活用を目的にデータの提供があった。
研究班の調査と異なる点は、会員に対する事前調査で得られた情報をもとに、124の症状を抽出し、患者本人あるいは保護者からそれぞれの症状の有無を確認している点である。このような工夫で、症状を漏れなく拾い上げることが可能となった。
また、後遺症症状をワクチン接種後に持続的あるいは断続的に1カ月以上続く場合と定義し、数日で消失した症状やワクチン接種前からあった症状は含んでいない。Google formで作成したアンケートフォームをメールで送付したので調査費用はかかっていない。全て、会員の手弁当である。
研究班の調査では、後遺症の症状として26症状が挙げられており、それぞれの症状の有無を医師がチェックするようになっている。さらに、日常生活で最も支障をきたした症状を記載する欄が設けられている。
報告書には、最も支障をきたしたものとして、79の症状が記載されているが、図1には、その中で頻度の高い症状を示す。最も頻度が高いのは、発熱・疼痛であった。
89人については症状の持続期間が記載されているが、7日以内が47人、28日以内が59人と大部分を占め、1年間以上症状が続いたのは6人に過ぎなかった。6人についても、その後に軽快あるいは回復しており、未回復であるのは3人に過ぎない(図2)。
患者会の報告ではのべ7,551の症状が報告されており、1人あたり平均24の症状を抱えていた。頻度が高い症状は倦怠感、疲労感、集中力の低下、睡眠障害であった。特異な症状として、筆者の検討でも見られた脱毛が68人、舌苔が28人にみられた(図3)。
患者会の報告では、完治したのは4人(1.3%)に過ぎず、改善傾向の131人(40.9%)を加えても半数以下であった。89人(27.5%)については悪化傾向であった。
図4に、完治していない316人のうち症状の持続期間が判明した303人における症状の持続期間を示す。267(88.1%)は1年以上、35人(11.6%)は2年以上、症状が続いている。持続期間の判定は、2023年7月の時点なので、今後、更に延びることが予想される。
研究班の報告と患者会の報告とでは、症状の頻度、持続期間、転帰に大きな違いがみられた。
研究班の報告では、ワクチン接種直後にみられる発熱、注射部位の痛み、頭痛などを含むのに対して、患者会の報告では、症状が接種後1カ月以上続く場合のみを取り上げたことによる。
研究班の症例の66%は、症状の持続期間が28日以内であるので、患者会の後遺症とする定義からは外れることになる。筆者の検討でも、ワクチン後遺症の特徴は症状が多彩であることであった。研究班の報告よりも、1カ月以上続いた症状を漏れなく記載した患者会の報告が、より、ワクチン後遺症の実態を反映していると考えられる。
研究班の報告書には79種類の確定病名が記載されていたが、そのうち2人以上の診断がある15種類の病名を示す(図5)。
予防接種後副反応、発熱、アナフィラキシー 、発疹、頭痛と続くが、医師の立場からすると、確定病名に発熱、発疹、頭痛を含んでいることに違和感がある。確定病名にはICD(国際疾病分類)-10コードが記載されているが、R00〜R99は症状、徴候および異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないものを示すコードで、病名ではない。発熱:R509、発疹:R21、頭痛:R51、など報告された79種類の病名のうち、21種類にはRコードが付けられていた。
アナフィラキシー はワクチン接種直後に発症する副反応であり、ワクチン後遺症に含むことに違和感がある。また、病名が痙攣重複発作と記載されていたが、重積発作の間違いかと思われる。重積という言葉は、一般には聞き慣れないかもしれないが、医師であれば間違えることはあり得ない。
医師から患者会会員が診断を受けた病名のうち、5人以上を含む病名を示す(図6)。
研究班の報告と異なり、症状は含まれていない。うつ病、自律神経失調症、パニック障害など心の病とする診断が多い。長期間続く多彩な症状に対して、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、繊維筋痛症、体位性頻脈症候群(POTS)などの病名が付けられている。
関節リウマチ、甲状腺炎、シェーグレン症候群、血小板減少性紫斑病などの自己免疫疾患もみられる。多発性神経炎、散在性脳脊髄炎、ギランバレー症候群、顔面神経麻痺など、これまでもワクチン接種後副反応と知られている神経疾患が含まれている。帯状疱疹、口唇ヘルペス、カンジダ感染などは免疫能の低下を示唆しているかもしれない。比較的稀な病名としては、副腎機能低下(7人)、IgA腎症(6人)がある。
厚労省のホームページには、「研究班の調査結果に基づき、現時点ではワクチン後遺症として懸念を要するような特定の症状や疾病の報告の集中は見られず、転帰についても多くの事例で軽快または回復していることが確認された」と説明されているが、筆者の経験や患者会の報告とは大きな隔たりがある。
とりわけ研究班の報告は、ワクチン接種直後にみられた副反応を含んでおり、28日間以上症状が持続した症例は30人に過ぎない。新型コロナワクチン後遺症患者の会の報告を参考に、症例を増やして再検討すべきである。