6回目コロナワクチン接種以降におけるわが国の超過死亡の推移

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5月8日の接種開始から、7回目のコロナワクチン接種が始まった9月26日までに、6回目ワクチンの接種を受けた総数は2,000万回に達する。この間のコロナ感染者数の推移を示すが、累積感染者数は1,140万人である(図1)。ワクチンを打てば打つほど感染者数は増えている。

図1 6回目コロナワクチン接種回数とコロナ感染者数

ところで、6回目ワクチン接種は、超過死亡に影響しただろうか。国立感染症研究所(感染研)のダッシュボードによれば、2021年、2022年には頻回に観察された超過死亡も、2023年2月以降は全く観察されなくなった(図2)。

図2 感染研が示す日本の超過死亡
国立感染症研究所

2月から8月にかけての死亡数は、2022年も2023年も差がないのに、不思議である(図3)。

図3 2022年と2023年における月間死亡数
人口動態統計速報2023年10月24日

このカラクリは、以前指摘したように、2022年と2023年の予測死亡数の違いによる。

激増していた超過死亡が一転して過少死亡になったのはなぜか?

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これまで、新型コロナウイルスの感染者数は、全数把握された速報値が毎日メディアで報道されていたが、5類への移行後は、定点観測施設からの週1回の公表に変わった。一方、超過死亡については、協力に応じた全国の自治体からの死亡数の報告に基づき...

超過死亡とは、「通常の条件下で予想される死亡数を基準に、危機の際に見られる全ての原因による死亡数の超過分である」ことから、コロナ流行期の2020年〜2022年を含む死亡数で予測された値をもとに算出した超過死亡は、コロナの流行が超過死亡に与えた影響をみるには適当とは思われない。

欧州連合統計局(Eurostat)では、コロナが流行した時期の超過死亡を、コロナが流行する前の2016年から2019年の月別死亡数の平均値との差で算出している。図4は、Eurostatに準じて算出した超過死亡、コロナ感染者数、コロナ死亡数とワクチン接種開始時期との関係を示す。

図4 月別のコロナ感染者数、超過死亡、コロナ死亡数の推移

交通事故死でもコロナウイルス検査が陽性であればコロナ死にカウントされることから、どの数字をもってコロナ死亡数とするかは迷うところである。今回は、死亡診断書のⅠ欄にコロナ感染と記載された人数をコロナ死亡数とした(表1)。死亡診断書のⅠ欄には直接死因が、Ⅱ欄には直接死因ではないが、Ⅰ欄の傷病に影響を及ぼした傷病名が記載される。

表1 死亡診断書に記載されたコロナ死亡数
厚労省死亡診断書の情報を用いたCOVID-19関連死亡数の分析(2023年8月)

図4に示されているように、3回、4回、5回目接種開始後に、きまってコロナ感染者数、超過死亡の増加が観察されている。3回目ワクチン接種の開始日は2021年12月1日で、超過死亡の増加が始まったのが、10週後の2022年2月8日の週からである。

4回目ワクチン接種の開始日は2022年5月25日で、超過死亡の増加が始まったのが、同じく10週後の8月1日の週であった。さらに、5回目ワクチン接種の開始日は2022年10月1日で死亡数の激増が始まったのが、12週後の12月27日の週であった。

2023年の5月8日に始まった6回目ワクチン接種後の超過死亡の推移に注目していたが、13週後の8月7日の週から死亡数の激増が始まった。このように、再現性をもってワクチン接種開始後10〜13週後に超過死亡の増加が観察されている。

わが国は急速に高齢化が進んでいるので、今回観察された超過死亡の増加は高齢化の影響を反映しているのかもしれない。年齢調整を行い、モデル人口と年齢構成を揃えれば、高齢化の影響を排除した死亡数の推移を知ることができる。

図5に、2014年から2022年における年齢調整を加えたわが国の年間死亡数の推移を示す。年齢調整死亡数は2015年のモデル人口を基準として算出したものである。粗死亡数とは異なり、2020年までは一貫して年齢調整死亡数は減少しており、コロナの流行が始まった2020年も前年と比較して3.5万人減少した。ところが、ワクチン接種が始まった2021年は、2020年と比較して2.5万人の増加が見られた。さらに、2022年には2020年と比較して10.1万人と大幅に増加した。

図5 日本における年齢調整死亡数の推移
2023年9月15日厚労省発表の2022年人口動態の概況をもとに筆者作成

これまで、日本政府は、感染研の報告をもとに超過死亡の原因としてワクチン接種の関与を否定してきた。感染研の鈴木基感染症疫学センター長は、第1回、2回目のワクチン接種回数のピークが2021年6月であるのに、すでに4月18日の週から超過死亡が観察されたことから時系列的関係が説明し難いとしてワクチンの関与を否定している。

しかし、死亡リスクが高い高齢者接種は一般接種に先行しており、とりわけ先行して接種を受けた特別養護老人ホーム入居者のワクチン接種後死亡発生率が高いことを考慮すると、鈴木氏が主張する理由でワクチンの関与を否定することはできない。

国立感染研は超過死亡の原因についての見解を改めて示すべきだ

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昨年来、超過死亡が話題になっている。9月16日に厚生労働省から、2021年の人口動態統計の確定数が公表された。昨年は、前年を67,101人上回る死亡数であった。東日本大震災のあった2011年でさえ、前年を上回った死亡数が56,054人である...

最近、感染研の脇田隆字所長は、以下の理由でもって、超過死亡の発生へのワクチン接種の関与を否定した。

新型コロナウイルスのワクチン接種が原因で超過死亡が発生した」と考えられる科学的根拠は、現時点において確認されていない。2020年以降の超過死亡の発生については、以下の複数の要因が影響したと考えられている。

  1. 新型コロナウイルス感染症を直接の死因と診断され、実際に新型コロナウイルス感染症を原因とする死亡
  2. 新型コロナウイルス感染症を直接の死因と診断されたが、実際には新型コロナウイルス感染症を原因としない死亡
  3. 新型コロナウイルス感染症が直接の死因と診断されなかったが(他の病因を直接の死因と診断された)、実際には新型コロナウイルス感染症を原因とする死亡
  4. 新型コロナウイルス感染症が直接の死因ではないが、感染症流行による間接的な影響を受け、他の疾患を原因とした死亡(例えば、病院不受診や生活習慣の変化に伴う持病の悪化による死亡)
  5. 新型コロナウイルス感染症が直接の死因でなく、また新型コロナウイルス感染症流行による間接的な影響を受けたものでもない死亡

今後も私を含め当所の職員一同は、市民の皆様の健康と安全の維持に寄与するために、より早く、より分かりやすく、より有益な情報を発信する。

「ワクチン接種が原因で超過死亡が発生した」と考えられる科学的根拠が確認されていないことを理由としているが、科学的根拠とはいかなるものを意味するのであろうか。これまで、感染研は、各シーズンにおけるインフルエンザ流行に伴う超過死亡数を発表しているが、この数字は、脇田氏のいう科学的根拠に基づいたものだろうか。

また、コロナによる超過死亡には5つの要因が影響したと述べている。超過死亡の要因は、一つの要因によるのではなく、もちろん複数の要因の関与が考えられる。なかでも、2020年以前には、コロナ死はなかったことから、超過死亡の要因として、脇田氏があげている1〜3の要因が含まれるのは当然である。問題なのは、超過死亡のうち、コロナ死では説明できない部分である。

2023年では、コロナが猛威を振るった1月における直接的なコロナ死は9,006人であった。間接的にコロナが関与したと考えられる死亡数を入れても16,219人である。1月の超過死亡は、36,898人であることから、2万人のコロナ死では説明つかない超過死亡が発生した。

また、コロナの流行が収束した4月、5月のコロナ死は561人、620人であったが、それぞれ、15,349人、15,964人の超過死亡が発生した。非流行期においても、流行期と同様に1月当たり1万5千人を超えるコロナ死では説明つかない超過死亡が発生している。

4.の病院不受診や医療の逼迫を超過死亡の原因とする意見も強い。頭では理解しやすいが、具体的にこれらを支持するデータは見られない。

コロナの流行初期にロックダウンが行われた諸国では、病院への受診や治療が遅れたことによってがん患者の超過死亡が生じたことが報告されている。しかし、わが国では、コロナ流行期の全期間を通して全超過死亡の増加を説明できるようながんによる超過死亡は観察されていない。

脇田氏は、5つの要因を挙げているが、可能性を指摘するだけで、具体的なデータを提示しているわけではない。ワクチンの関与を否定するには、接種後に再現性をもって超過死亡が生じることや、コロナの流行が始まった2020年でなくワクチン接種が始まった2021年から超過死亡が見られたことへの説明も必要である。

よりわかりやすく、有益な情報の発信に努めると締めくくっているが、今回の説明で納得する国民は少数であろう。超過死亡の原因については国民の関心が高いだけに、是非、国民の多くが納得のいく説明をするべきである。