トップにも中堅にも人材が不在
9月の内閣改造後、政務三役の更迭は3人目となりました。NHKの世論調査でも内閣支持率は29%(7ポイント下落)で瀬戸際の30%を割ってしまいました。普段は高めの支持率が出るNHKでさえこの有様ですから、今後、さらに支持率の下落は続くでしょう。
最近、はやりの「持続可能な開発目標」(SDGs)にちなんで言えば、「持続可能な民主的統治」を考えてみる必要があります。Sustainable Democratic Governance(SDG)ですか。将来、閣僚にでもなって、日本の民主主義政治を支えるはずの中堅レベルにもまともな人材が少ない。
岸田首相が狙っていた解散・総選挙を強行していたら、自民党は大量の落選者がでて、首相への痛撃になったに違いない。だからほっとしているのでしょう。いや、本当は、総選挙を強行してもらって、自民党政権に対する審判を仰いだほうがよかったのかもしれません。
岸田首相一人の能力不足、指導力不足の問題ではないと思います。自民党全体が現代の重い諸課題を背負える人材に乏しいという病にかかっている。「岸田政権は発足後、最大の危機にある」(朝日新聞)と牧原出・東大教授は語っています。私は岸田政権にとどまらず、自民党全体がレベルダウンした状況に陥っていると考えます。
野党は与党にまして、まともな人材がいない。立憲民主党も国民民主党も、与党の失点を待って騒いでいるだけです。維新の会も、大阪万博誘致を無理推してきたことで逆風を受けるに違いない。財政を監視する独立財政機関を提唱、設立する機会が来ているのに、野党は頭が回らない。
閣僚の更迭、副大臣の更迭、政務官の更迭、さらに言えば岸田首相自身の統治能力不足と列挙してみると、自民党の政治人材が払底していることが証明されます。毎年、史上最大を更新する膨大な予算を編成したところで、満足に執行できるはずはありません。
財政金融政策の手詰まりから、30年ぶりとか50年ぶりとかの円安を記録し、日本経済のドル建て価値が続落しています。GDPはドイツに抜かれて4位、さらに26年にはインドにも抜かれて5位まで落ちるそうです。物価も上がる一方で、内閣支持率の低下にはそうした背景もある。
閣僚、政務三役の問題は、首相を含め「財政金融政策を含めて、迷路にはまり込んだ日本を再建できる政治人材が乏しい」というジャパン・プロブレム(日本問題)の一角に過ぎない。
新聞の社説の見出しを並べますと、「財務副大臣辞任/規範意識の低さにあきれる」(読売新聞)、「危機感を欠いた首相の傍観」(毎日新聞)、「連続辞任は順送りのツケだ」(日経新聞)と、岸田政権のガバナンスの欠如にあきれ果てています。木を見ても森を見ていません。
私はそういうレベルの政治的問題ではすまないと思います。公職選挙法違反のネット広告利用(柿沢未途副大臣)、経営する会社の税金滞納・差し押さえ(神田憲次副大臣)、女性との不適切交際(山田太郎政務官)と、不祥事が様々な分野にまたがっています。
洋上風力発電に悪乗りして逮捕された議員もいる。閣僚から政務三役までが多種多用な犯罪、不祥事をやってのけているのをみると、氷山の一角が浮上しているにすぎない。「適材は誰、適所はどこ」「遅れた更迭」「任命責任は」(朝日新聞)という次元の状況ではなさそうだ。
岸田首相が「任命責任を重く受け止めている」といっても、任命責任という言葉ほど空疎なものはない。重く受け止め、辞任するということでもない。多くの首相も「任命責任は私にある」といい、結局、その場をすり抜けただけでした。追及する野党も「任命責任の取り方」とは、具体的に何なのかを考えていない。「任命責任」は空箱なのです。
神田氏も「政治家として説明責任は果たしていく」と述べました。「説明責任」も空疎な空箱で、なんの責任もとらないことを意味します。閣僚も政務三役も、派閥からの推薦で決まるのでしょう。適材かどうかは後付けの理屈です。なんとでもこじつけられる。
そうした議員を押し込んだ派閥のトップに本当の責任がある。派閥でも、当選回数で候補を決め押し込んでくる。適材を探しても、人材がいないのです。実態を言えば、岸田首相に責任を負わせることはできない。
党幹部が「不祥事の中身と所轄官庁がばっちりと重なってしまっている。この政権の『身体検査』(身ぎれいかどうかのチェック)はどうなっているのか」と語っていると、朝日新聞は書いています。恐らく「身体検査」などをすれば、ほとんどの議員に問題があることが分かる。
だからまともな「身体検査」なんかしないし、したら適格者に欠く。だからばれたら辞める。そういう人事を繰り返している。そこを掘り下げて書くのが政治ジャーナリズムの責任です。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2023年11月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。