タイのセター首相と岸田首相でこんなに違う「経済最重視」の意味

左:岸田首相 右:セター首相(タイ)
出典:Wikipedia

政権末期の岸田首相

岸田内閣の支持率も地に落ちて、いよいよこの政権も末期状態となってきている。

先月の所信表明演説では「経済、経済、経済」と連呼しながら急に経済重視の政策を強調していたが、それまで話題になっていた所得減税の話から一転、藪から棒に経済最重視を打ち出してきたというのが率直な印象であった。

また、先日、岸田首相はAPEC出席のためにアメリカに旅立ったのだが、その直前の記者会見で「自由で開かれた貿易やデジタル経済の推進、気候変動など喫緊の課題について議論を行い、日本の立場を発信する場としたい」とまたまたお得意の抽象的でよくわからない演説を披露した。

あれだけ「経済最重視」という以上、もう少し具体的に日本経済にとって実のあることをしに行けばいいのにと筆者は思った次第である。

世界を飛び回るタイの新首相

一方、8月23日にタイの首相に就任して以来、タイ国内の新聞でよく見かけるのが、セター新首相による積極的な経済政策や海外訪問だ。

セター首相も岸田首相と同じく経済重視なのだが、現地の経済新聞でも「就任後2か月で6ヵ国も回る“セールスマン首相”、セター首相は就任後短期間の間に多くの国を訪ねて回ったという意味で、タイの歴史上最高の首相といえる」とその精力的な行動が高く評価されていて、わずか2カ月でアメリカ、カンボジア、ブルネイ、マレーシア、中国、そしてサウジアラビアと矢継ぎ早に訪問したのである。

また、今回のAPEC会議出席に関しても、岸田首相より一足早くアメリカ入りし、タイへの工場誘致について財務大臣を引き連れてテスラの工場を訪問したり、ヒューレットパッカードの経営陣と面談したりと積極的である。

特にテスラの工場誘致などは、中国政府による撤退圧力にさらされているテスラに対し、セター首相自らがEV3.5パッケージと呼ばれるEVに対する補助金や税制面での優遇を手土産に、タイでの新工場誘致に乗り出したわけで、彼は紛れもなく行動を伴う有言実行の首相だと思う。

さらに、セター首相はアメリカのテクノロジー分野の巨人であるAWS(アマゾンウェブサービス)、グーグル、マイクロソフトの首脳陣とも相次いで面談した結果、合計3,000億バーツ(1兆2,000億円)ものタイへの投資について前向きな返事を得たのである。

ビジネスマンと政治家の違い?

ところで、セター首相はもともとタイ最大手の不動産会社の一つ、サンシリのCEOとして不動産開発でその辣腕を振るってきたビジネスマンである。

それが突然政界入りし、8年も続いてきた軍事政権によって疲弊したタイ経済を復活させるという国民の期待を背負って8月に新首相になったわけだが、就任後の精力的な動きはタイの経済再生を確実に牽引しつつあるように見える。

ただし、現地のTVなどを見ていると、何回かセター首相が血相を変えて怒っているのを見たことがあるのだが、この辺は冷静であまり感情を表に出さない岸田首相と比べて、南国気質のタイ人らしく短気で感情を露わにする性格も見て取れるので、筆者もセター首相が人間的にもパーフェクトな首相といっているわけではない。

一方、岸田首相は先月の所信表明演説で「なによりも経済に重点を置く」とか「一丁目一番地が経済」とかいいながら自分の言葉に酔いしれていたが、結局具体的にどうするのかよくわからないままで、多分何もしないか何もできないままで終わるのだろうと思っただけである。

たとえビジネス経験がなくても国の経済を牽引してきた政治家はたくさんいるが、岸田首相にそれができないのは、やはり自分の信念に基づく行動力がないからではないかと思う。

日本も出てこい有言実行の総理大臣

岸田首相は以前外相だったこともあり、外遊は好きなようで首相になってからもよく海外に出かけていたが、経済という意味で具体的な成果があったようにはあまり思えない。

ちょっとは英語も喋れるのだろうと思うのだが、国際会議ではバイデン大統領の方ばかり見てないで、もっとどん欲に日本の国益を追求して行動してもらいたかった。

いずれにせよ、国民がもう痺れを切らしているは誰の目にも明らかで、今からでは時すでに遅しである。実は筆者は彼とは同じ年代で大学も同窓ということから、最初は大いに期待していたのであるが、残念ながらそろそろ退陣の時が来ているというしかない。

日本の政界にセター首相のような逸材がいるのかどうかわからないが、次は自分の政策や信念を国民に分かりやすく説明し、それを行動に移す新たなリーダーが出てくることを期待している。