イスラエルとハマス、妄想気味に考えてみた

Veronaa/iStock

イスラエルによるガザへの激しい空爆には言葉もない。多くの人が命を落とし、重傷を負い、逃げ惑う光景は実に痛ましい。たとえ空爆を逃れても、水や食料、燃料が尽き、病院すら立ち行かないなかで、どうやって生き延びるのか。想像を絶する。

1200人もの人を残虐に殺害し、外国人を含む200人を人質として連れ去った10月7日のハマスの奇襲攻撃では、イスラエルに同情し、ハマス掃討のための反撃も致し方ないと思った。しかし、民間人を巻き込んだ過剰なまでの空爆が連日繰り返されるようになると、同情は批判や反感に変った。

これまでも、一発殴られたらその数倍くらい殴り返すとでも例えられようか、イスラエルのハマスなどパレスチナ過激派の攻撃に対する反撃は民間人を巻き込むことも厭わない激しいものだったが、今回は度を超している。

こうした容赦のない攻撃に加え、イスラエル建国に伴うパレスチナの苦難の歴史、そして「屋根のない監獄」と呼ばれる場所に生きざるを得ないガザの人びとを思うと、パレスチナへの共感を覚える人は多いはずである。もちろん私もその一人だ。

イスラエルの最大の友好国であるアメリカでも、特に若者の間でパレスチナ支持が高まっている。たとえば、10月21日から24日に18歳以上のアメリカ人1500人を対象にした世論調査の中の「イスラエルとパレスチナのどちらに共感するのか」という質問では、18歳から29歳の回答者のうちイスラエルと答えた者20%に対し、パレスチナは28%と後者が上回った。若者のイスラエル離れは他の世代、とりわけ高齢者と比較するとはっきりわかる。65歳以上の回答者はイスラエルが65%、パレスチナは6%に過ぎなかった(The Economist/ YouGov Poll)。

国際世論の心情においてイスラエルはいかにも分が悪いようにみえる。しかし、だからと言って、この武力衝突、善悪あるいは正義の所在をはっきりとは決めつけられない。何か釈然としない。ことごとく疑念が湧くのである。

まず、ハマスの奇襲攻撃には、テロ支援国家と言われるイランの強い関与が指摘されている点である。イランは関与を否定している—誰も信じない—が、ハマスの幹部が度々イランを訪問し、最高指導者のハーメネイーとも面会していた。何よりも、イランの支援なしには今回のような奇襲作戦の実行は不可能だ(CBS News “Why did Hamas attack Israel and why now?” October 25, 2023)。

Why did Hamas attack Israel, and why now?
The Iran-backed Palestinian faction Hamas knew its unprecedented terror attack on Israel would draw a devastating response, so why did it strike?

2020年、当時のトランプ大統領の仲介により、イスラエルはUAE、バーレーン、スーダン、モロッコと相次いで国交を樹立し、この流れはすでに国交のあるエジプト、ヨルダンを除く他のアラブ諸国にも波及する可能性が高まった。イランは、イスラエルとアラブ諸国の急接近に強い警戒感を抱き、その亀裂を窺っていた(CBS News)。

今年に入って、イスラエルでは、ネタニヤフ政権の司法改革(最高裁の権限の無力化)が国を二分し、かつてない混乱の最中にあった。国民の激しい反対によって改革は一時中断されたが、与党が7月24日改革関連法を成立させたため、抗議運動が再燃し、国民の間には政権に対する不信感が高まった。このイスラエルの政治的混乱はハマス、そしてイランにとっては極めて好都合だったのである(CBS News)。

ハマスはガザの人びとの命を軽視し、その犠牲を全く意に介さず、むしろ罪のない人びとの犠牲を利用しているかのような点も極めて不愉快である。ハマスがかれらを「人間の盾」にしているとのイスラエルの主張を私も当初は疑っていた。だが、実際にハマスの幹部はその旨を公然と述べており、やはり信ぴょう性のあることだと考えられる。しかも、ハマスはイスラエルの過剰な反撃を想定し、作戦に織り込み済みだとの分析がある(CBS News)。

激しい空爆によるガザの市民の犠牲を利用しようというわけだ。イスラエルを「悪」に仕立て、パレスチナへの世界の同情を集め、引いてはハマス自らの正当性を勝ち取ろうとする。つまり、ガザ市民の犠牲が増えるほど、反イスラエルの風潮が高まり、ハマスを利する。

さらに、気がかりなのがウクライナ情勢である。長引く戦闘のためにウクライナへの関心は低下傾向にあるが、今回の件でその傾向がさらに強まっているようだ。結局のところ、ロシアが漁夫の利を得る。イラン、ロシアの影がちらつけば、それだけで危険極まりない。

ネタニヤフ首相に攻撃の手を緩める気配はない。それは、ハマスを殲滅せずにはおかないという激しい怒りに加え、その奇襲を許した失策への非難を打ち消し、国民の信頼を取り戻すためである。しかし、想像を逞しくすると、ハマスはネタニヤフのこうした行動を承知の上で、彼を煽り、逆にイスラエルを窮地に追い込もうとしているのではないか。ネタニヤフはハマスの巧妙な「罠」に落ちたのかもしれない。