米国における環境擁護団体の変容とEnvironmental Justice

米国の環境擁護団体は、ワシントンの政治において影響力がある。

その中でも、2020年の献金トップクラスは以下の4つだ。

  1. League of Conservation Voters(1970年設立)
  2. Sierra Club(1892年設立)会員数:約380万人
  3. Natural Resources Defense Council(1970年設立)会員数:約300万人
  4. Environmental Defense Fund(1967年設立)会員数:約250万人

どれも民主党が支持団体で、これらから支持されるかどうかで大統領予備選が大きく変わる。大統領予備選では、それぞれの団体から”Endorsement”をうけることが重要なのだ。どの団体も、誰を支持するか支持表明をしていく注1)予備選挙では、こうした団体票をとっていくことが重要になる。

忘れてはいけないが、元NRDC議長ジーナ・マッカーシはバイデン政権の初代気候変動対策大統領補佐官だ(現在は退任)。マッカーシー大統領補佐官は、オバマ政権時代に環境保護庁長官を担っていた印象の方が強いが、NRDCの元議長だったということを忘れてはいけない。

2024年総選挙にむけての環境擁護団体の動きは早かった。環境擁護といっても、なかなか団結できない彼らだったがはじめて団結して支持宣言をした。すでに6月時点で主要な環境擁護団体はバイデン大統領再選にむけて動き始めたのだ。

さて、米国で100年以上の歴史をもつSierra Clubについて少し話しておきたい。

Sierra Clubは、作家、自然保護論者、国立公園の父とも呼ばれるジョン・ミューア(John Muir)によって創設された。

彼は、1838年にスコットランドで誕生し、1860年に家族と渡米してウィスコンシン州に移住。1868年、シエラ・ネバダ山脈に魅了されサンフランシスコに移住する。1890年には、ロビー活動を行い、ヨセミテ国立公園を創立する。その流れで、1892年にはシエラ・クラブも創立している。その後、セコイア国立公園、マウント・レーニア国立公園、ペトリファイド・フォレスト国立公園、グランド・キャニオン国立公園の設立にも関わった人物だ。

彼は、第26代大統領セオドア “テディ”・ルーズベルト大統領(共和党/1901年〜1909年)と親交が深かった。テディはミューアが執筆した本「Our National Parks」に深く感銘をうけ、連邦政府による自然保護活動を開始させたのだ。

テディ・ルーズベルト大統領とも親交が深かったというところでピンとくる人は少ないだろうが、1930年代のシエラ・クラブ会員数は約3000名で、ほとんどが共和党員だったのだ。

今でこそ環境擁護団体は民主党員が多いが、「自然保護/野生保護」という観点では、実は共和党の方が今でも重要視している。彼らが支持する銃の保有も、野生生物のハンティング・フィッシングなどのレクリエーションを楽しむためというのがあるくらいだ。

シエラ・クラブは1930年代当時は、数千人しかいない小さな団体だった。しかも、クラブの発祥はカリフォルニア州の地方で発生した小さな動きだったのだろう。

大きな転機をむかえ全国規模で会員が増えることになったのは、米国で1950~70年ごろにダム建設ラッシュが訪れた時だ。この20年間は、ダムの黄金時代だった注2)。当時は、南カリフォルニア州やアリゾナ州など乾燥地帯に安価な電力と農業のための灌漑をさせるために必要だったのだ。

DAVID BROWERが1952年にシエラ・クラブのディレクターに就任してから環境保護運動にも変化が起きた。このダム建設ラッシュとともに、シエラ・クラブの活動は、ダム建設反対運動にシフトしていったのだ。

当時のシエラ・クラブは渓谷の景観を守ることに注力していて、当時は水力発電よりも石炭火力発電所を設置する方が合理的だと主張した記録も残っている。現在では、クリーンエネルギーともてはやされている水力発電ダムも、当時は「景観を壊す」悪者だったのだ。エコ・パークダム、グランドキャニオン国立公園内のダム建設反対にも活動していった。

ダム建設黄金期とともに、シエラ・クラブの会員数は7万にもふくれあがった。WSJの記事にあるように、この当時はまだ白人による自然保護運動だったところにも注目しておきたい注3)

そして1970年を境にダム建設ラッシュは終焉をむかえる。

ニクソン大統領時代に、国家環境政策法・大気汚染防止法・水質汚染防止法などが次々に可決してダムを建設しづらくなった。ダムの終焉とともに、環境擁護団体のダム建設反対運動も消滅していったのである。

環境擁護団体が転機を迎えるのは1980年ごろからだ。

米EPA(米国環境保護庁)にもはっきり書かれているが、Environmental Justice movementが出てきたのである。そのムーブメントを説明するには、公民権運動の理解が重要だ。

1955年黒人女性のローザ・パークスがバスの白人用席に座っていて白人に譲るように促されても断ったために逮捕される事件があってから、モンゴメリーでのバス・ボイコットが起きて公民権運動は勢いづいていった。

1963年にはキング牧師らによるワシントン大行進(March on Washington for Jobs and Freedom)があり、1964年に公民権法が制定される。1970年代に入ってからは連邦議会にも黒人議員が増えてくるなど政治力をもちはじめていたのだ。彼らは声をあげて主張しはじめるようになったのだ。

EPAによると、Environmental Justice movementのキッカケはNC州ウォーレン地区の貧しいコミュニティに有害物質を埋め立てる州政府の決定への抗議から1982年にはじまった注4)

翌年の1983年にはテキサス州ヒューストンの黒人居住区が有毒廃棄物処理場に選ばれているとロバート・D・バラード博士(AL州黒人大学出身)らが研究結果を発表したことで大きな話題をよんだ。5つの市営ゴミ処理場、80%の市営ゴミ焼却場、75%の私営ゴミ処理場は黒人居住区に設置されていたのである。ヒューストン人口の黒人比率が25%だったのに対して偏っていることを発表した。

環境汚染は有色人種・マイノリティの住む地に集中していて、そこには差別(Environmental racism)が存在しているというのが彼らの主張だ。そのEnvironmental racismを是正する運動というのがEnvironmental Justice になるのだ。

こうした事実が明るみに出るにつれて、環境正義団体(Environmental Justice )たちのリーダーが、今までの白人中心の自然保護団体と手をくみはじめていくことになる注5)

1991年10月、ワシントンで「the First National People of Color Environmental Leadership Summit」が3日間開催されたとき、環境正義運動は大きな盛り上がりをみせるようになっていた。サミットには、米国、カナダ、中央アメリカから数百人の環境正義のリーダー達が集まった。サミット名にも記載されているように「People of Color Environmental(有色人種の環境問題)」なのだ。

環境正義団体(Environmental Justice )は、石炭火力発電所を目の敵にしている。その理由は、環境差別の観点なのだ。シシエラ・クラブの表現をかりるならば、石炭火力発電所は、汚染物質を流して有色人種・ネイティブアメリカン部族、低所得者のコミュニティに健康被害を与えているからということだ注6)

また、環境擁護団体の主張としては、化石燃料企業は白人の独占産業とみられていることも理解しておいたほうがいい。1940年、黒人は石油生産に従事する全従業員の0.05%しかいなかった。なのに、重労働で安月給な仕事は黒人に任せる傾向があったのだ。その一方で、製油所等の工業用地は、意図的にネイティブアメリカン居住区や有色人種コミュニティの近くに建設したということもシエラ・クラブには書かれている注7)

このようにして、Environmental Justiceは、今までの「自然保護/野生保護」という視点での環境擁護団体を飲み込んでいったのだ。今もまだ「自然保護/野生保護」の活動はもちろんあるが、環境正義の方が大きくなってしまっているのが実態だろう。

公民権運動の流れをくんででてきた「Environmental Justice movement」なので、当然、環境団体の支持政党は大半が民主党になってしまったというわけだ。

今の環境擁護団体は決して、最初から同じ活動をしていたわけではない。Environmental Justice movementの流れで、環境擁護団体は大きく変化していき、今でこそ大きな力をもつようになった。自然保護・野生保護と、環境正義の両方の利害が一致しているからこそ、現在は団結しているだけで、何かのキッカケがあればデカップリングする可能性はある。

注1)「NRDC Action Fund Endorses Biden for President」
「LCV ACTION FUND ENDORSES JOE BIDEN FOR PRESIDENT」

注2)Amrican Dum

注3)The Man Who Saved the Grand Canyon

注4)Environmental Justice Timeline

注5)The Environmental Justice Movement

注6)How Coal and Gas Damages Your Health

注7)The Fossil Fuel Industry’s Legacy of White Supremacy