自民党派閥解散、岸田総理の「党内革命」に呼応しているのは誰か

岸田派解散の決心を嚆矢として、まるで図っていたかのように自民党最大派閥の安倍派も解散方針を決めたという。そんな大胆な意思決定を俄かにできるとは思えないので水面下で呼応と調整がなされていたと筆者はみている。

自民党の最大派閥・安倍派(清和政策研究会、96人)と第5派閥の二階派(志帥会、38人)は19日、自民派閥の政治資金規正法違反事件で立件対象となったことを受け、それぞれ派閥を解散する方針を決めた。同じく立件対象となった岸田派(宏池会、46人)が先んじて解散の方針を決定し、同様の対応を取らなければ国民の理解が得られないと判断した。

読売新聞より)

党内戦後レジームからの脱却

報道が事実であれば、これは自民党の“党内革命”であろう。

過去の不祥事に対応して行われた政治改革を経てもなお、自民党は田中角栄に象徴されるような人事や権力の構造からの脱却は成功せず、その内部統制の構造を“温存”せざるを得なかった。政治改革で取り決めた自主規制ルールも実態には即しておらず、いつしか形骸化していった。

それを仮に「自民党戦後レジーム」と呼ぶならば、その旧弊も目立ってきていた。例えば資質に難を抱える人材を登用したために、後日足元をすくわれ政権運営がまともに進まない現象が常態化している。また政策面でも憲法改正の停滞など、数々の不可解な機能不全が観測されるが腑に落ちる説明がないことの方が多い。

「戦後レジーム」とはある面からみれば「平和な時代(平時)」の意思決定システムである。国際環境が激変する中で、国益保護上要請される役割という観点から、半世紀以上前から続く古さに加え、この“平時のシステム”で動乱が予期される時代に対応するのはもう限界だったのだろう。

「自民党をぶっ壊す」と宣言した小泉総理が壊したのは結局、高品質な郵便サービスや安定的な雇用慣行など有形無形の国民資産だった。

「戦後レジームからの脱却」に言及した安倍政権では、国際関係の再構築だけでも大仕事であり内部改革には着手できなかった。

そこで、この宿題を引き継いだ岸田政権は、世界情勢の劇的変化という“外圧”を利用して、弊害の方が大きくなっていた「自民党内戦後レジーム」の破壊と新ガバナンス体制の再構築という大仕事に取り組んでいるものと理解した。

防衛費倍増にしてもこの問題にしても、岸田総理の「風の捉え方」は実に巧みである。しかし今回は自己手術的な性質の大仕事である。総理とはいえ相対的には小さな派閥の岸田総裁がやり切れるものだろうか。これは最大派閥安倍派内部に呼応する実力者がいると考えるのが自然である。

「安倍派と二階派の即応」が意味するもの

“風”を捉えたとはいえ、相対的には小さな集団である岸田派だけが解散しても、最大派閥の安倍派など諸派閥をどうにかしなければ解散した派閥のメンバーは他派閥へ移るなどして、意図とは逆に旧体制をより強固なものにしかねない。

ここで二つの点に注目したい。

一つは、岸田総理と萩生田前政調会長の信頼関係である。政権を岸田総理が、自民党を前政調会長がハンドリングして難局を打開してきたものと見ている。そのため政調会長辞任の際に本件問題解決への期待を表明した。

自民党政治資金問題、萩生田政調会長の動きに注目

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逆風は人の本性を晒す。 渦中の本人と取り巻く周辺人物たちの双方ともに。 従前筆者は萩生田光一政調会長の動向に注目し期待と信頼を表明してきた。同氏を取り巻く環境は、昨年7月8日の安倍元総理遭難事件を境に潮目が変化し、今や逆風に変わ...

以下の見解はその続きである(なお萩生田氏への期待バイアスは自覚している)。

これは筆者の推測だが、「表は岸田総理が決心・実行したが、同時に水面下では萩生田元政調会長が既に調整を済ませていたために、一夜にして難題である派閥の解散を完遂したのではないか」との仮説を立てている。

あくまで仮説にすぎないがそう仮定すれば、旧統一教会問題で窮地に立たされたあたりから感じていた岸田政権の意思決定の不可解さにも一定の納得ができる(「特定宗教との関係を断ち切る」という憲法に照らして疑問が残る対応や、詰め切れているか微妙な「解散請求」など、筆者には腑に落ちない意思決定が多数あった)。

この仮定は、いわゆる「Xファクター(ファクターX)」である。物事を読み解くうえで飛躍が残る論理につながりをもたらす橋(または部品)である。

そして注目すべきもう一つの点は、「この時点で意思決定できていない派閥がある」という事実である。これこそが、この一連のガバナンス改革で目指したのもが何であったのか、何を破壊し何を再構築したかったのか、その輪郭を浮き彫りにしているように筆者には見えるが、現段階でそこまで具体的に言及すると「陰謀論」の域に踏み込むことになるので明言はしない。

むすび

繰り返しになるが筆者は仮説として、次のようなストーリーを考えている。

『党内統治に関し従来のガバナンス体制では旧弊のほうが大きくなり、何等かの不具合が極まっていた。それを走りながら生まれ変わらせるには大手術が必要だが相当な出血もあるので大義名分が必要だった。しかし岸田総裁の党内部での力はそれをやりきるほど強くはない。そこで、表で岸田総理が、水面下・最大派閥内部で実力者萩生田政調会長(当時)が”同志”として強く結束呼応して、この党内革命を周到に実行した。』

断定するには提示可能な根拠が弱いが、このように仮説を立てれば、ここ数年の様々な謎に答えが出る(ただしそれはいわゆる傍証に過ぎない)。

読売新聞は社説で「説明責任を果たせ」と主張している。その通りだがそれは“正論”だ。現実の政治において、組織内部の暗闘を完全に透明に説明できるわけはないし、すべきでもない。他国に向けて国内の弱点を晒す必要はない。いつかは知りたいが、上述シナリオの答え合わせ(本当の核心部分の開示)は30年後でよいと考える。

気になるのは麻生氏や茂木氏ら実力者たちの動向だがその心境やいかに。この際岸田総理と萩生田前政調会長には、とにかくこの”党内ガバナンス革命”と戦後レジームからの脱却の完遂をお祈り申し上げる。