「断固たる措置」は口先だけ
円安が進むたびに、財務省は「行き過ぎた投機的動きには断固たる措置をとる」と強調してきました。財務省所管の為替介入というげんこつ(断固たる措置)を振り上げたものの振り下ろさないのです。
政府がけん制する「投機的動き」を誘っているのは、日本の超低金利です。日本で資金を調達して海外など運用すれば、儲けることはたやすい。自国の金融財政状況が根源的な原因です。日本は自らに牽制球を投げたほうがいいのです。
今週末、ワシントンで開かれた主要国・G20財務相・中央銀行総裁会議では、為替問題は議題にされなかったため、日米韓だけで財務相会議を開き「最近の円安・ウォン安への日韓の深刻な懸念を認識する」といった声明をまとめただけで終えました。「断固たる」ではなかった。
円安は輸入物価の上昇を通じて、国内にインフレを輸入することになり、消費者を痛撃します。円安は日本の安売りで、GDP(国内総生産)の国際ランキングはドイツに抜かれ、第4位に落ちました。
ですから政府としても、無策を続けると国民の批判が高まりますから、「断固たる措置をとる」と言わざるを得ないのです。その「断固たる措置」は何度聞かされてきたか。実は「円高でなく、円安のほうが居心地がいい」が政府の本音、本心であると、私は思っています。
円相場は3月27日に1㌦=151円台に下落し、34年ぶりの円安水準につけました。鈴木蔵相は「行き過ぎた動きにはあらゆる手段を排除せず、断固たる措置をとる」と断言しました。何もしませんでした。
15日には1㌦=153円台に円は続落しました。財務省はまだ動きません。16日にはさらに154円台を記録しました。財務省の神田財務官は「毎日のように米国を含む主要国と連絡を取り合っている」と述べました。
この間、報道される円安の攻防ラインは150円、152円、155円と後退していきました。そうこうするうちに「インフレが続き、米国の利下げ時期が後退した。中東情勢の緊迫化で有事のドル買いが起きている。原油高が再燃した。ドル独歩高が主導する局面では、介入の効果は薄い」という解説が存在感を増してきました。
恐らくそういうことなのでしょう。それにもかかわらず、財務相らが「断固たる措置をとる」と連呼してきたのは、「無策ではないぞ」という構えを見せることは必要だと判断してきたからでしょう。
19日には消費者物価が2.6%上昇し、23年度平均では2.8%の上昇と発表されました。アベノミクスの目標であった「2%の物価上昇」を2年連続で超えいます。日銀が想定を繰り上げて、金利引き上げに動くかもしれません。その気配からか、株価は19日午前、1000円安で3万7000円を割った。日銀が利上げに動くのかもしれません。
今後、日銀が短期金利(現在0.1%)を上げるとしても、0.25%を4回、続けてもやっと1%です。日米間の金利格差(4、5%程度=ドル高・円安要因)が大幅に縮小することはありません。日本の利上げと介入が重なったとしても、円安は続く。
いろいろな動きが交錯するとしても、政府の本音は「円安は円高より居心地がいい」に変わりがないと思います。まず、物価高の下では消費税収入が増える。24年度政府予算案では、主な税収は消費税23.8兆円です。これが増えていくなら、財務省は円安歓迎なのです。
さらに所得税17.9兆円、法人税17.4兆円です。輸出依存度が高い大企業ほど、利益が増え、法人税収も増える(16.3%増)。15.9%減となった所得税は「物価高を相殺できる賃上げを」が叫ばれていますから、今後、増えるでしょう。財政赤字に悩む財務省はこの面でも円安歓迎です。
「行き過ぎた投機的動き」と政府はいいます。「投機的動き」を誘っているのは日本の超低金利です。日本で資金を借りて海外で運用すれば、金利差を稼げる。日本株も買う。
金融を正常化しようとすれば、財政の正常化と連動する必要があります。日本が金利を上げても、せいぜい1%程度の水準までとすれば、円安が続く。目先の困難ばかりに振り回されず、「緩和依存症」からの脱却に向け、長期的展望にたって、プログラムを書き直すべきでしょう。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2024年4月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。