トランプ氏当選のシナリオが複数でてきているが、立法を担う連邦議会選挙も同じくらい重要だ。上院選挙は再選挙の議席数からして共和党が有利なのは自明の理である一方で、下院選挙は選挙区割りをめぐる法廷闘争だった。
その法廷闘争が一区切りついたことで、下院選挙の見通しがついたといえよう。
選挙区割りを巡るゲリマンダ訴訟はひと段落
下院選挙なんて、選挙区割りでどちらの党が勝つか決まるといっても過言ではない。選挙区割りの決め方は州によって異なり、多くは州議会が区割りを立法し、知事が署名して法律となり決まる。この手法が最も多く、33州が実施している。そのため州議会&知事を多数党としておさえている党が有利になるように選挙区割りすることが慣例となっている。
自党に有利になるような選挙区割りにすることをゲリマンダ(ゲリマンダリング)という。正直、どちらの党もやっていることだ。
一方で、選挙区割り委員会を設置して区割りを行う州もあり、14州(AK・HI・CA・WA ・ AZ ・ CO ・ ID ・ MO ・ AR ・ OH ・ PA ・ MI ・ MT・NJ)だ。ちなみに選挙区割り委員会は中立で政治家以外で構成される場合もあれば、MO州・OH州のように州議会議員から選出されて構成される場合もある。
また、VA州とNY州は、議会と選挙区割委員会の双方が選挙区割りの権限を共有するハイブリッド方式を採用している。最後の5州(VT・DE・ND・SD・WY)については、下院議員は1名の構成になる注1)。
3月末に2つのゲリマンダ訴訟に決着がついたことで、2024年総選挙の選挙区割りは、いったん確定した。
1つ目は、FL州のゲリマンダ訴訟だ。FL州議会およびFL州知事が作成した選挙区割りは黒人有権者を差別しているとは証明できず、合衆国憲法修正第14条および第15条に違反する人種的敵意には該当しないと控訴裁判所の判事は判断したのだ注2)。原告は連邦最高裁判所に上告することは可能だが、少なくとも2024年総選挙に間に合いそうにもない。そのため、2024年総選挙のFL州では共和党にとって有利な選挙区割りが確定した。
2つ目は、SC州のゲリマンダ訴訟。こちらも州議会を支配する共和党が作成した選挙区割りは黒人差別になっているという理由で公民権団体が訴訟をおこしていた。SC州予備選挙の期日前投票は5月下旬、国外在住者の不在者投票は4月下旬から開始することを考えると間に合わないという理由で、共和党が作成している選挙区割りで2024年総選挙を実施することになった注3)。
共和党が少しだけ有利となった2024年の選挙区割り
共和党の選挙区割りに関する戦略的な組織であるNational Republican Redistricting Trust (NRRT) のエグゼクティブディレクターであるAdam Kincaidも“It is a marginally more favorable map in ‘24 than we even had in ‘22,”と発言している通り、2022年よりも少し共和党にとって有利となった注4)。
その主な要因は、NC州だ。2023年にNC州最高裁判所は選挙区割りがたとえ党派的であっても州裁判所はそれを裁けないとし、選挙区割り決めは州議会の役割であると結論づけた。これによって激戦区だった3つの選挙区は共和党がほぼ確実に勝利する選挙区割りに変更された注5)。
さらに、共和党にとってラッキーだったことはNY州の選挙区割りがほぼ変わらなかったことだ。NY州では独立委員会が2020年国勢調査後に選挙区割りを作成したが両党で長いこと合意できず法廷闘争が続いた。民主党はNY州で本来22議席の青い選挙区を獲得することを期待していたが、結局のところ2022年中間選挙では16議席しか獲得できなかった。2024年も同様になり、NY州17区と4区は全米で最も激戦区となる選挙区となった注6)。
トランプ氏と距離を置く激戦区の共和党下院議員
Inside Electionsの分析では、 選挙区割りによってほぼ勝利が確定している” Solid Republican ”で187議席を獲得しており、Likely, Lean, or Tilt Republicanまでいれると216議席の確保が可能だ。以下に示す10の超激戦区のうち2議席さえ確保すれば過半数の218議席になるというわけだ。超激戦区で4議席が現職の再選なので、議席さえ死守できれば、共和党は下院で多数党になることが可能となる。
一方で、民主党は選挙区割りによって勝利が確定している” Solid Democratic ”で174議席を獲得しており、Likely, Lean, or Tilt を含めても209議席だ。218議席になるためには、 Likely, Lean, or Tiltを確実に勝利したうえで、激戦区 (Toss-up) で9議席も確保しないといけないので厳しい道のりだ注7)。
激選区 | Party | 現職の下院議員 | トランプ氏から支持 |
CA州13区 | 共和党 | John Duarte | × |
CA州27区 | 共和党 | Mike Garcia | × |
CO州8区 | 民主党 | Yadira Caraveo | - |
MI州7区 | 民主党 | Elissa Slotkin ※上院選出馬のため引退 |
- |
NC州1区 | 民主党 | Don Davis | - |
NM州2 区 | 民主党 | Gabriel Vasquez | - |
NY州4 区 | 共和党 | Anthony D’Esposito | × |
NY州17 区 | 共和党 | Michael Lawler | × |
OR州5 区 | 民主党 | Lori Chavez-DeRemer | - |
WA州3 区 | 民主党 | Marie Perez | - |
ちなみに、Cool Politifcal Reportでは激戦区(Toss-up)は22選挙区なので、追加で12選挙区が増える注8)。共和党のみピックアップしてみる。
選挙区 | 現職の下院議員 | トランプ氏から支持 |
AZ州 1区 | David Schweikert | × |
AZ 州6区 | Juan Ciscomani | × |
CA州22区 | David Valadao | × |
CA州41区 | Ken Calvert | × |
NJ州7 区 | Tom Kean | × |
NY州19 区 | Marc Molinaro | × |
しかしながら、共和党も民主党より有利な状況だといっても、共和党に有利であろう議席数は2議席だ。
また、現時点で激戦区の現職共和党下院議員、あるいは現職民主党下院議員への対抗馬として出馬している立候補者はいずれもトランプ氏から支持を表明されていない。これから支持される可能性もあるが、大統領候補と距離をおいて戦うつもりなら、厳しい戦いを強いられる可能性もある。
上院選は共和党がわずかにリード
2024年上院選では共和党は51議席確保の見込みだ。上院議員の任期は6年で、だいたい議員100名のうち3分の1が再選挙となる。ただ、その年によって3分の1の内訳はかなり偏っているのだ。2024年でいえば、共和党で再選挙となる議員はたった11名なのに対して、民主党は20名で無所属(といっても民主党と連携している)3名が再選挙となる。
接戦だったAZ州はシネマ議員が引退を決めたことで、 民主党候補者(現職下院議員のRuben Gallego氏)と共和党候補者(AZ州知事に立候補したKari Lake氏) の一騎打ちとなったが、RCPによると民主党がリードしている注9)。
また、接戦とされていたOH州ブラウン議員・MT州テスター議員もリードしている。しかしながら、民主党にとって番狂わせだったのはMD州で元州知事のラリー・ホーガン氏の上院選出馬だ。元州知事としての知名度や人気度で、民主党候補者を大幅にリードしている。正直、ホーガン氏の出馬がなかったら50対50の議席になっていただろう。
2024年、オールレッドになるかはブルーウォール次第
2024年の大統領選はブルーウォール(MI州・WI州・PA州)次第で決まるといっても過言ではない。ブルーウォールでトランプ氏が2州勝てば、オールレッドになる可能性は高い。このあたりは、過去ブログ「TRUMP VS. BIDEN REMATCH 2024」をご覧ください。
そして、本ブログで述べた通り、上下院で共和党が多数党を獲得できる可能性が高い。上院が議席数を逆転しただけで下院はほぼ変わらない構成になるとみている。
上院:共和党 51議席 民主党 49議席 (共和党+1議席)
下院:共和党 220議席 民主党 215議席 (共和党+2議席)
共和党は数議席差の多数党となり、何らかの理由で投票を欠席したり、数名でも反対がでたら法案は可決できなくなる。もっとも上院ではフィリバスター回避のために60票必要なので厳しい。
共和党マカウスキ上院議員はトランプ氏に投票しない可能性をほのめかしたり、マコネル少数党上院院内総務は未だにトランプ氏支持を表明していない。
すでに共和党はトランプ氏が大統領候補として決まったようなものだが、未だに大統領候補として支持していない上院議員は15名弱いる。
なので、オールレッドではあるがトランプ氏の政策が実現するかというと別の話となる。今の共和党が団結して取り組めるのは減税と化石燃料を復活させるエネルギー政策くらいではなかろうか。アンチ・クリーンエネルギーについては意見が分かれるところだろう。
大統領権限は確かに強力だが、立法を担う連邦議会選挙で勝利しないと立法や高官の承認は思うように進まない。
2016年ー2020年の第一次トランプ政権を振り返れば、共和党内で意見が一致せずに政府閉鎖を起こしているし、トランプ減税は成功したものの、オバマケア廃止には失敗している。オールレッドになったといっても、スムーズに政策が進むとは思いにくいのだ。
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注1) Ballotprdia.org
注2)Federal court upholds DeSantis-backed congressional map
注3)South Carolina to hold 2024 congressional elections with map previously ruled unconstitutiona
注4)The fight to flip the House just got harder for Dems. And they have New York to blame.
注5)North Carolina Supreme Court clears way for partisan gerrymandering
注6)New congressional maps approved in New York
注7)Race to House majority runs through the 10 Toss-ups
注8)2024 CPR House Race Ratings
注9)https://www.realclearpolling.com/latest-polls/senate
編集部より:この記事は長谷川麗香氏のブログ「指数を動かす米議会」2024年4月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は「指数を動かす米議会」をご覧ください。